いまこそ知りたい! 災害派遣精神医療チーム【DPAT】とこころのケア【PFA】

平成28年4月14日の前震、平成28年4月16日の本震など、熊本県から大分県にかけて地震活動が続いている。この「平成28年(2016年)熊本地震」の被災地において、発災直後より活動を展開しているのが災害派遣精神医療チーム「DPAT」(Disaster Psychiatric Assistance Team/ディーパット)。自然災害、航空機・列車事故、犯罪事件などの大規模災害等の後に被災者及び支援者に対して「精神科医療及び精神保健活動の支援」を行うための専門的な精神医療チームだ。

 

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東日本大震災を教訓に

東日本大震災では、岩手県、宮城県、福島県及び仙台市から厚生労働省に災害対策基本法に基づくこころのケアチームの派遣斡旋の要請が行われ、精神科医を中心としたメンバーで構成される精神科医療及び精神保健活動の支援を行う専門的なチームを編成。平成24年3月までに延べ3504人(57チーム)が被災地にて活動した。加えて、この57チーム以外にも、大学、医療機関、医師会等が主体となり、別ルートの調整により多くのこころのケアチームが被災地で活動を行った。
平成23年12月には、総合的な調整・助言指導やデータ分析を行う全国的機関を設置することにより、中長期的なPTSD症状や治療内容等の把握・分析を行い、被災県のメンタルヘルス支援の質の向上に活用するとともに、今後の災害に備える主旨で「災害時こころの情報支援センター」が国立精神・神経医療研究センターに設置された。同センターでは、厚生労働省による派遣斡旋を受けた、東日本大震災こころのケアチームに対しアンケート調査を行い、活動に関する調査報告書をとりまとめた。その結果、急性期支援の必要性、統括の必要性、平時からの準備の必要性、といった課題が整理された。
そこで、厚生労働省では災害時こころの情報支援センター等と相談し、DMATの名称や活動要領を参考に、災害派遣精神医療チームの名称や定義を定めることとし、平成25年4月1日に厚生労働省からDPAT活動要領(厚生労働省社会・援護局精神・障害保健課長通知)を発出した。DPATの誕生である。

 

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DPAT研修の様子

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大規模災害演習(本部立ち上げ)。

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DPAT都道府県調整本部運営訓練。

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活動拠点本部運営訓練。

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地域支援活動訓練。

 

災害時精神保健医療のスペシャリスト

災害時に現場に駆けつける災害派遣医療チーム「DMAT」が救急治療を行うための専門的な医療チームであるのに対し、災害派遣精神医療チーム「DPAT」はこころのケアといった精神科医療及び精神保健活動の支援を行うための専門的な精神医療チームとなる。災害規模が大きくなれば、一度に多くの傷病者が発生し医療の需要が急激に拡大する。そうなれば、被災地域都道府県等だけでは対応が困難な場合が想定される。こうした事態に対しては、被災地域での精神科医療及び精神保健活動の支援する存在が必要であり、災害時の精神医療活動には、通常の診療スキルに加え、DMAT等の多様な医療チーム、保健師チーム等との連携を含めた災害時精神保健医療のマネージメントに関する知見が必要となる。この活動を担うべく、専門的な技術・能力を有する災害派遣精神医療チームとして組織されているのがDPATなのである。

 

■DMATとDPATの比較

  災害派遣医療チーム DMAT
(Disaster Medical Assistance Team)
災害派遣精神医療チーム DPAT
(Disaster Psychiatric Assistance Team)
概要 大地震及び航空機・列車事故等の災害時に被災者の生命を守るため、被災地に迅速に駆けつけ、救急治療を行うための専門的な医療チーム 。 自然災害、航空機・列車事故、犯罪事件などの大規模災害等の後に被災者及び支援者に対して、精神科医療及び精神保健活動の支援を行うための専門的な精神医療チーム。
活動期間 DMAT1隊あたりの活動期間は、移動時間を除き概ね48時間以内を基本。なお、災害の規模に応じて、DMATの活動が長期間(1週間など)に及ぶ場合には、DMAT2次隊、3次隊等の追加派遣で対応。また、DMATロジスティックチームの活動期間は、48時間に限定せず、柔軟に対応。 DPAT1隊当たりの活動期間は、1週間(移動日2日・活動日5日)を標準とし、必要があれば一つの都道府県等が数週間~数ヶ月継続して派遣。
チーム構成 DMAT1隊の構成は、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の4名を基本。 DPAT1 隊の構成は、精神科医師、看護師、事務職員等による数名のチーム(車での移動を考慮した機動性の確保できる人数を検討)で構成。
情報システム 広域災害・救急医療情報システム
(Emergency Medical Information System:EMIS)
災害精神保健医療情報支援システム
(Disaster Mental Health Information Support System:DMHISS)

 

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内閣府総合防災訓練(平成26年8月30日・宮崎県)の様子

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DPAT調整本部。

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被災精神科病院。

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受け入れ病院(総合病院精神科)。

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受け入れ病院(精神科病院)。

 

熊本地震でも活動

DPATの実災害派遣としては、平成26年8月に広島県で発生した大規模土砂災害が正式な初派遣となった。続いて、同年9月の御嶽山の噴火による災害や平成27年9月の茨城県を主とした関東・東北豪雨災害においても活動が行われた。
そして、平成28年(2016年)熊本地震では、発災直後からDPATは動いた。発災後72時間以内に被災地に於いて活動する「先遣隊」が投入され精神保健医療に関するニーズのアセスメントが行われた。あわせて、熊本県庁内にDPAT調整本部が立ち上げられ、以降、6月1日時点で延べ911隊(DPAT事務局調べ)が活動を行った。

 

熊本地震における被災地での活動

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■熊本地震における医療機関の被災概要

  • 5医療機関(精神科以外)約820名の入院患者を搬送(4月16・17・20日、DMAT約300隊・消防 )
  • 精神科病院協会等の協力のもと、7精神科医療機関計591人(県内319人、県外272人)の入院患者を搬送(4月15日・16・17日、DPAT・DMAT・自衛隊)

 

長期にわたる支援

チーム構成は1隊につき精神科医師、保健師又は看護師、事務調整員の3名~5名で編成。DMATの活動期間は1隊あたり概ね48時間以内(移動時間を除く)を基本としているが、DPATは移動日2日・活動日5日の1週間を標準とし、さらに必要があれば数週間~数ヶ月継続して派遣を行うこともある。発災当初は倒壊の危険のある精神科病院の入院患者を、他の病院へ転院させるための支援などを行う。その後は避難所等にいる被災者のこころのケアなどを行うこととなり、これが長期戦となるからだ。時間の経過とともに災害ストレスにより心身の不調を訴える人が現れたり、避難所の運営スタッフといった「支援者」の心もサポートしていく必要が出てくる。そこで、災害急性期が過ぎてからは、長期にわたり地域巡回などを行い、被災地の精神医療体制が元の状態に回復するまでサポートが続けられるのである。

 

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■DPATの主な活動実績(熊本地震を除く)

 

■広島土砂災害(平成26年8月20日~)

1.災害概要

  • 平成26年8月20日未明、断続的な大雨で土砂災害が発生
  • 広島市安佐南区、安佐北区にて被害甚大

2.DMAT・DPATの主な対応

  • 消防、DMAT、日赤救護班等の関係機関が活動
  • 8月22日に広島市から広島県へDPAT派遣要請。広島県・市DPAT3チーム活動開始(全国初出動)
  • 広島県・市DPAT延43チームが活動。巡回避難所数10か所、合計派遣日数28日、延101件の診察・相談を行い、11月4日に活動終了

 

 

■御嶽山噴火災害(平成26年9月27日~)

1.災害概要

  • 9月27日11時52分頃に噴火
  • 長野県木曽町、王滝村に災害救助法が適応

2.DMAT・DPATの主な対応

  • 消防、DMAT、日赤救護班等の関係機関が、被災者の救助・支援活動を実施
  • 9月28日、県立木曽病院の依頼により、長野県が県立木曽病院にDPAT(県立こころの医療センター駒ケ根チーム)を1隊派遣
  • 登山者、遺族等計11名の診察・相談を行い、10月3日にDPAT活動終了

 

 

■平成27年9月関東・東北豪雨による災害(平成27年9月10日~)

1.災害概要

  • 9月10日未明、台風18号による記録的な大雨により鬼怒川が氾濫・決壊し洪水が発生
  • 茨城県常総市内中心に甚大な被害発生
  • 災害救助法、被災者生活再建支援法が適用

2.DMAT・DPATの主な対応

  • DMAT、自衛隊、消防が11日にきぬ医師会病院から72名、また11日~12日に水海道さくら病院から73名(うち透析患者33名)を入院患者を搬送した
  • 茨城県精神医療チームがJMAT・日赤等と連携して活動。9月13日活動開始、10月13日活動終了。終了後は精保C、筑波大等が週に数回常総市役所、避難所で相談対応
  • DPAT事務局が現地DPAT本部支援へ事務局員派遣

 


 

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■こころのケア【PFA】とは?

PFAは「psychological first aid/サイコロジカル・ファーストエイド」の略で「心理的応急処置」を指し、苦しんでいる人や支援が必要と思われる人に、同じ人間としての人道的な支援の仕方を示している。
PFAの必要性はIASCやSphereなどの国際的ガイドライン・組織においても認められているが、なかでも国際的に広く支持を受け、普及されているものは、2011年にWHO(世界保健機構)が発行したPFAである。WHO版PFAは“Do No Harm”の原則に則って、支援活動が被災者にとって有害であったり押しつけがましいものとならないように配慮をしながら、実際に役立つ支援を提供するというものである。このガイドラインは、被災者や被災地と関わる可能性のあるすべての人が知っておくべき基本的な内容の集大成となっており、かつ精神保健の専門家以外にとっても分かりやすく、普及が容易なものとなっている。
近年では消防の世界でもPFAを踏まえた、より愛護的な現場活動が模索されつつある。傷病者や要救助者という「苦しんでいる人」に接する消防職員にとってPFAは重要な要素。ガイドブックが公開されているので、一度目にしておくとよいだろう。

 

心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイドの閲覧はこちらから
http://apps.who.int/iris/bitstream/10665/44615/18/9789241548205_jpn.pdf

 

■ここもチェック

DPAT事務局
災害急性期からの精神科医療機関の支援やこころのケアも含むDPAT活動の支援や、平時の研修や訓練を行っています。
http://www.dpat.jp

 


 

情報提供:国立病院機構災害医療センター 日本DMAT事務局運営室 室長補佐 河嶌 讓医師

(DPAT事務局員)

文:Rising編集部

 

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