第3回渋消式火災防ぎょ戦術勉強会[群馬県]

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去る平成27年12月12日(土)~13日(日)の2日間にわたり、群馬県消防学校において渋消式火災防ぎょ戦術勉強会が実施された。
この勉強会は群馬県・渋川広域消防本部が主催するもので、同本部が研究の末に生み出した渋消式火災防ぎょ戦術を学ぶという、全国でも珍しい消火技術に焦点をあてた数少ない勉強会である。
消防専門誌での紹介やガイドブックが発刊されたことで、いわゆる「渋消式」は全国から注目される存在となっている。そうした中、同本部では全国の消防本部からの問い合わせに対し、個別受託研修を行って対応している。そして、同時に消防職員個人からの問い合わせや、自己研鑽の場を求める声も多い。これに応える形で、同じ志の者が集結して共に学ぶ場として「渋消式火災防ぎょ戦術勉強会」を年1回開催している。
3回目となる今回は、北は青森南は沖縄まで全国70消防本部から132名の消防職員が参加。従来は同本部施設で実施されていたが、参加者が増加したことから今回は群馬県消防学校を舞台に実施されることとなった。

 

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唯一無二の渋消式

この勉強会は、単純に火災防ぎょ戦術という手技を学ぶのではなく、消防力の整備指針や、それに基づく一般住宅火災の対応全般について、同本部が研究した内容などを集まった消防職員と一緒に学ぼうというのが基本スタンス。つまり、消防の基幹活動といえる火災防ぎょに関して多角的に学べるのが特徴であり、国内でもあまり行われていない取り組みといえる。
もちろん、手技としての渋消式火災防ぎょ戦術についても注目度が高い。
渋川広域消防式火災防ぎょ戦術(略称・渋消式)と名付けられたこの新戦術は、わずか13~14名という限られたマンパワーで、いかにして素早く筒先配備を行うかという点を大きなテーマとしている。
呼称40㎜のホースをベースとして耐火造建物に対して積極的な内部進入を行い迅速に火点を叩く「ヨンマル戦術」など、近年注目される火災防ぎょ戦術は「筒先側の動き」を中心に考えられているものが一般的なのに対し、いわゆる渋消式はその前段階、「指令から筒先配備までの間についての動きを最適化する」という発想で考えられている。さらに、既存の方法論や技術文献などを鵜呑みにすることなく、置かれた環境、車両、装備、人員、体制といったものを踏まえ、トライアル・アンド・エラーを繰り返し、その結果として生まれた戦術であるため、手技の一つひとつに至るまで「なぜそれが最適と判断したのか」という点が容易に理解できるのもポイントだ。

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実技訓練は3グループに別れ、それぞれのブースで技術を体験する。訓練に先立って行われる説明を、記録をとりながら聞き入る参加者たち。

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後部に吸管を収納した、いわゆるリア吸管仕様の車両。ロックを解除し吸管を担ぎ上げる。

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吸管収納を容易にするひと工夫。吸管にビニールテープでマーキングを施し、ロック部分に収まる位置を明示している。

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オールシャッター式の車両で、車体中央のポンプ室部分に吸管が収納されているセンター吸管仕様における伸長要領体験。

 

目からウロコの連続!

勉強会は1日目の座学において消防力の整備指針、消防水利の基準などのおさらいが行われる。消防人にとって「いまさら聞けない」といえる基礎知識の部分だが、だからこそ奥も深く、改めて読み解いていくと多くの発見がある。
消防力の整備指針における署所の設置基準数は「隣棟間隔が1~5mの火災では出動~放水開始が6.5分を超えると隣棟への延焼率が急に高くなる」というデータに基づく。そこから逆算していくと、出動から現地到着までを4.5分以内、放水準備から放水開始までを2分に抑えるというのが理想値になる。また、最先着隊による2口以上の放水が高い消火効果を得ているというデータもある。
ならば、どうすればこの理想値に近づくことが出来るのかという発想で、渋消式の研究は始まっている。
こうした経緯や考え方を知るということも、参加者にとっては大きな収穫なのだ。
「渋川と自分の所属が守るエリアでは、地域環境も消防体制も異なる。この戦術をそのまま自分の本部に取り入れることは難しい。だが、全ての要素について、考え方について参考に出来る部分がある」
失敗談といった経験も包み隠さず語られるのがこの勉強会。だからこそ、知識や手技そのものだけでなく、着目点や改善のためのアプローチ方法など、広い範囲にわたって発見が出来るのである。

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勉強会では初披露となった前だしの実演展示。ヨリを解除しながら迅速に、そして華麗に吸管を延ばす。

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吸管伸長要領の体験。単純な動作に思えても、簡単にはいかない。

ひたすら延ばす

救助系や救急系の勉強会であれば、想定訓練を軸とした実技訓練がつきものだ。一方の渋消式火災防ぎょ戦術勉強会では、火点に向かっての放水といった想定訓練は行われず、ホースバッグによるホース延長や、吸管伸長といった部分を中心に行われる。
渋消式のテーマは「6.5分以内の2口設定」の実現だ。そのためのキモになるのが、迅速な吸管伸長やホース延長なのである。したがって、勉強会2日目の実技訓練においても、これら技術を集中して学ぶのである。
参加者は3グループに別れ、それぞれのブースで時間の限りこれら技術を体験する。
「ナイス延長!」
訓練に集中すると、どうしても声が出なくなる。確認呼称をしやすい雰囲気作りとして、運営側の渋川広域消防本部スタッフは大きな声かけで場の雰囲気を盛り上げる。いつしか参加者同士が互いに声援を掛け合い、実施時にはしっかりと確認呼称の声が出せる。ちなみに、渋川広域消防本部では指導者にあえて若手を充てている。教えることで自ら学ぶ機会を与えているのだ。

 

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毎回新発見が出来る

渋消式は常に進化を続けている。したがって、勉強会の度に新要素に触れることができる。第3回の勉強会では、吸管伸長に「センター吸管車両における前出し」という要素が加わった。渋消式ではこれまで、車両中央のポンプ室に吸管を収納した車両において、吸管を車両後方へ伸長する方法が研究されていた。そして、次のステップとして、車両前方へ、1名で迅速に伸長する方法が編み出され、今回の勉強会で紹介された。
止まるところを知らぬ渋消式。ゆえに、何度参加しても新しい発見があるということなのだ。
ほかにも、渋川広域消防本部では日常の業務や現場活動を改善する大小さまざまなスゴ技を多く生み出している。こうした細部について説明を受けるだけでも、非常に勉強になるのだ。
勉強会の最後には、参加者たちの中から選抜された隊員により、ホースバッグによる2線4口延長と一斉放水が行われ、充実した2日間を締めくくった。
渋川広域消防本部では全国の消防職員と共に学ぶ中で、さらに学びを深め、今後も「渋消式」を育てていくことにしている。

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勉強会の最後は、参加者たちの中から選抜された隊員によりホースバッグによる2線4口延長が行われた。

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一斉放水。実火災ではこの筒先で火点を包囲する。

 


 

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本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

写真・文:RISE取材班

 

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