注目の消防車両 CLOSE-UP! 救助工作車 III型

 見るからにタダモノではない救助工作車が誕生した。兵庫県の明石市消防局では高度救助隊が運用する救助工作車III型を更新。同車は車内空間や積載キャパを拡充させることを目的に、日野プロフィアの8t級消防専用シャーシ・シングルキャブ仕様を採用。積載庫側に隊員室を付加した、いわゆる第3のバス型として仕上げられている。

更新配備された新型救助工作車(左)と先代救助工作車(右)。(写真提供:明石市消防局)

 先代車両は平成11年に日野レンジャーの高床4WD・7t級シャーシをベースとして製作されたもの。省令別表1~3の資機材の大半を積載するためキャパに余裕はなく、積載重量に対するエンジンパワーの不足も否めなかった。また、キャブも従来型であり、隊員室の空間も限られていた。平成23年に発生した東日本大震災へ緊急消防援助隊として出動した際には、隊員らはこれらネックを身をもって痛感することとなった。
 同本部では車両更新に向けての動向調査を5年ほど前から実施。車内空間や積載キャパを拡充させつつエンジン出力も大きくできるというメリットから、8t級の大型車をベースとする方向で検討を進めた。すると、平成29年に福岡県・久留米広域消防本部が8t級2軸シャーシを用いた救助工作車を製作した。そこで、久留米広域消防本部の全面協力により先代車両との比較検証が実現。異例ともいえるこの実車ベースでの検証確認により図面や資料からだけではつかみきれぬ数々のメリットを把握することができ、明石市消防局では日野プロフィアの採用を決めた。
 8t級2軸シャーシベースの「第3のバス型」として製作された新型救助工作車は、車内空間や積載キャパが拡充され、エンジン出力アップによる走行性能の向上など、当初のテーマを見事クリアしている。さらに、もう一つ特筆すべきが駆動方式をあえて2WDとしている点だ。2WDは4WDに比べ小回り性能が高く、近年ではトラック用スタッドレスタイヤの性能も大幅に向上しており、タイヤチェーンを併用すれば雪道にも対応が可能。そこで、平時の管内運用(=市街地運用)を考慮して、あえて2WDとしたのだ。これによる効果は予想以上で、先代車両では入れなかった路地にも進入できるようになるなど、トータル的な活動性向上が実現できたという。また、2WDとしたことで車両の軽量化を図ることもできた。

剥がれを防ぐためエッジ部分でシートが切り分けられ、白のアウトラインとして見える。

 同車最大の特徴といえるのが、日本初となるラッピング方式の採用である。ヨーロッパでは主流の手法で、同車の場合はまずシャーシメーカー純正色の「ホワイト」を塗装。その上に3M社製の「3Mラップフィルム シリーズ1080-G13」(朱色)で車体ラッピングを施している。これにより、塗装の場合に比べ約80kgの軽量化が実現しており、塗装工程が短縮できるため工期や予算の縮減にも効果をもたらしている。
 さらに、ラッピング方式は副次的な効果も大きい。活動時に資機材等が接触した場合も、塗膜に比べて柔軟性のあるフィルムであればすぐさま割れや剥がれを起こすことがない。また、補修が必要になった場合もその面のフィルムを貼り替えるだけで済む。近年ではバスなどでラッピング方式を用いた広告などが普及しているため、明石市内にも施工可能な業者がある。仮に貼り直しが必要となった場合でも、市内の業者において塗装に比べ短時間での対応が可能となるため、運用停止を最小限に抑えることができるわけだ。
 他にも、フィルムはボディーラインに合わせて切り分けられており、車体の輪郭に白いラインが出るのもメリットになる。車体形状が認識しやすくなるため、走行時に他の交通に対して自車の存在はもちろん、位置関係や距離が伝わりやすくなるのだ。
 このようなメリットの高さからヨーロッパではラッピング方式が主流となっている。あわせて、この方式を進んで取り入れているのには環境対策という意外な理由がある。塗装であれば塗り重ねる度に乾燥が必要であり、これによるCO2の排出量を減らすという狙いがあるのだ。こうした世界的な流れも踏まえ、同車では初となるラッピング方式を採用したのだ。

LINE-Xにより保護されたバンパー。

 車体の大部分はラッピングにより朱色としているが、クレーンやアウトリガー、照明装置といった装備や、艤装の関係でラッピングが行えない箇所については従前方式の塗装が行われている。また、バンパーやタイヤ周り等には特殊塗装「LINE-X(ラインエックス)」を採用している。
 LINE-Xは高い強度と柔軟性、そして強力な吸着性により耐衝撃・耐爆破という性能を有することで知られ、「アメリカ軍に認められた唯一の防護塗料」として注目を集めている高純度ポリウレア塗料。日本においても積雪寒冷地での融雪剤や海に面した地域での潮風による塩害対策として北海道や東北地方を中心に消防車両への採用が増えてきたところだ。
 瀬戸内海に面する明石市では車両の錆対策は不可欠。そこで、電気式防錆システム「ラストアレスター」を設置するとともに、下周りをLINE-Xで塗装。飛び石などによる傷防止に加え、防錆・耐塩害効果を狙っている。また、滑り止め効果も高いことから、ステップ表面などにもLINE-Xによる塗装を行っている。

積載庫内に用意された手すり。車両周辺での作業時に隊員を支える機能も充実している。

 同車は「車道左寄せでの部署」という活動基本を念頭に置き、右側面に現場即応系資機材を集中レイアウト。左側面に大型油圧救助器具など大きなアイテムが積載されている。積載庫には展開式収納棚を設定することで空間を立体的に活用。展開角度を広く取り裏側の角をカットすることで、奥側に収納したアイテムを取り出す際の干渉を防いでいる。また、収納棚に収めるアイテムは独自の前傾型マウントを介して収納。隊員の体格に関わらず電動コンビツールなどが容易に取り出せるように配慮している。
 外観のインパクトに目を奪われがちだが、同車は見えない部分、積載方法や空間活用、さらに資機材選定に至るまで、実に細やかな工夫で彩られている。
 この先20年、しっかりと人々を救う。そのため、時に最大の救助ツールとして、時に隊員の活動をサポートする存在として、常に車両は万全の状態でなければならない。このシンプルにして究極のテーマをかなえるべく明石市消防局が製作した新型救助工作車は、これからの「消防車づくり」に対する方向性を示す一台に仕上がっているといえるだろう。

 

 

pagetop