災害救助犬に詳しくなろう

■災害救助犬とは

災害救助犬とは、地震や土砂崩れ、雪崩などにより倒壊家屋や土砂等の中に閉じこめられたり、山歩きなどで行方不明になった不特定な人たちを、犬の優れた嗅覚を使って見つけだすことができる犬のことを指す。「人を探す」という点では警察犬に近いイメージがあるが、警察犬は特定の人(容疑者など)の原臭を追いかけるという方法で人を探すのに対し、救助犬は要救助者の呼気や皮膚から剥がれ落ちたタンパク質(ラフト)などを含んだ要救助者が発するストレス臭などの浮遊臭を感知する。そこで、不特定の生存者をターゲットとすることができ、動けずに同じ場所に留まっている、呼吸はしているが声がでないといった状態の要救助者を、原臭に頼らず検索する事ができる。

 

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現場にて活動にあたる災害救助犬と指導手(ハンドラー)。

 

 警察犬 災害救助犬
足跡等の固定臭をたどる 空気中に漂う人の浮遊臭を追う
足跡臭がないと辿れない ラフト、体臭、息等でを辿る
川を渡れば足跡は途切れる 風下であれば辿れる
特定臭のみを辿っていく 人を限定せずに探せる
持ち物等の原臭が必要 特定、原臭は必要ない

 

日本国内においては公的機関に所属する災害救助犬はほとんどおらず、災害救助の第一線機関である消防組織に災害救助犬は存在しない。警視庁警備部警備二課が、人命検索だけでなく爆発物探知や犯人制圧といった「警備活動」に対応できる警備犬を育成しており、国際緊急援助隊の救助チームとして出動する際は、この警視庁警備犬が災害救助犬として投入される。警察は警察犬を育成・訓練するノウハウを有している一方、消防機関が自らで災害救助犬を育成して運用するとなれば、かなりの負担を要することになる。また、消防という分野では人命検索以外に犬の特性が活かされる場面も少なく、この人命検索については電磁波探査装置といった高度救助用資機材の整備を進めることで対応がなされている。しかし、災害救助犬の検索能力の高さは周知の事実。そこで、消防では災害救助犬の独自育成でなく、民間の災害救助犬関連団体と災害応援協定を締結し、いざの場合には優れた災害救助犬を現場に投入できる体制を構築している。

 

ロープによる高所進入訓練にあたる警視庁の警備犬(写真:木下慎次)

ロープによる高所進入訓練にあたる警視庁の警備犬(写真:木下慎次)

 

■熊本地震での活動

日本国内では、阪神・淡路大震災以降、地震災害をはじめとする各種災害現場において、災害救助犬が活動を行ってきた。そして、「平成28年(2016年)熊本地震」の現場においても、災害救助犬が活躍した。
4月14日21時26分頃に熊本県熊本地方を激しい揺れが襲う。後にこの地震は「前震」と判明したが、熊本県益城町では震度7を記録し、各地で建物倒壊などが発生した。しかし、この段階では倒壊家屋内に閉じ込められ位置特定が困難といったケースはなく、災害救助犬の必要性は低いと考えられていた。
だが、4月16日1時25分頃に発生した「本震」により状況が一変する。南阿蘇村高野台地区では地震により山肌が大きく崩れ、人家を飲み込んでいた。災害救助犬が必要とされるのは、場所が特定できない要救助者を捜索するという場面。多数の行方不明者が発生している状況を受け、災害救助犬が被災地へ集結した。

 

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NPO法人災害救助犬ネットワークでは、活動エリアに程近い南阿蘇村長陽庁舎内グラウンドに災害救助犬本部を設置。救助犬関係者の登録や情報集約・分析の拠点が設けられた。現地には延べ8団体82名47頭が集結。高野台地区には7名の行方不明者がいるとの情報があり、このエリアでの活動が集中的に行われた。警察や自衛隊が土砂を取り除き、災害救助犬が確認を行う。この地道な活動の繰り返しにより、行方不明者4名の発見に至った。しかし、発見されたのはいずれもご遺体であった。

 

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■現場での動き

大規模地震などの倒壊家屋捜索では、最小単位として災害救助犬3頭と指導手(ハンドラー)3名、隊長1名が1チームになって出動する。実際の創作活動にあたっては、3頭のうち1~2頭が捜索を実施し、残る1頭が待機。担当の犬が捜索していない指導手は隊長とともに捜索中の犬を観察する。そして、捜索により1頭が行方不明者発見の反応を示したら、同じ場所をもう1頭に確認させる。さらに、2頭目の反応が不確実であれば3頭目に確認させる。こうして情報精度を高め、2頭が同じ場所で発見の反応をしたら、その場所に行方不明者がいる確率が高いと判断。消防・警察・自衛隊などの救助実施実働部隊にその位置を知らせ、直ちに人命救助活動が開始される。

 

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東日本大震災における活動の状況。見渡す限り瓦礫で埋め尽くされた市街地を捜索して回った。

 

こうした連携活動を行う消防隊員が気をつけねばならないことがある。
消防の世界では「風上有利の原則」が徹底指導されており、常に風上に身を置くことが習慣付けられている。火災現場であれば風下方向へ延焼し、NBC災害といった現場でも風下方向へ危険物質が流れてくる。つまり、安全管理の基本として風上有利の原則が用いられているのだ。
しかし、災害救助犬を投入した現場においては、この原則が災害救助犬の鼻を惑わすことになる。
検索現場において効率よく要救助者の場所を特定するためには、その現場の風の流れ、大気や室内の対流に注意を払う必要がある。災害救助犬は風下側よりアタックし、風上側から流れてくる浮遊臭を辿ることで人の臭いを嗅ぎ分け、臭いの元へと進んで行き知らせてくれる。つまり、風上側に要救助者以外の隊員がいれば、その臭いに困惑され、活動精度に影響を及ぼしてしまうのだ。そこで、災害救助犬を投入した捜索現場においては、隊員は一旦風下側へ待避する必要があるのだ。
捜索現場で示される行方不明者発見の反応も重要だが、一方で、まったく反応を示さない(=ゼロ回答)というのも重要な情報になる。反応がないということは人の臭いがしないということであり、「対象区域には要救助者がいない」という判断を下す根拠になるからだ。
要救助者がいるのであれば迅速な発見が必要であり、いないのであればすぐさま次のエリアへ転戦が可能になる。救助隊の効率的な活動をサポートするためにも、災害救助犬が活動しやすい状況を作る必要があるのだ。

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■犬の適性と訓練

災害救助犬には犬種の制限はないが、一般的に狩猟本能のある犬が向いていると言われている。現在の日本では、シェパード、ラブラドール、ゴールデン、ボーダーコリーなどが多く、他にもダックスフント、ウェルシュコーギーなどの小型犬や、柴犬、甲斐犬などの日本犬なども災害救助犬として活躍している。また、欧米にはさらに多くの犬種の災害救助犬が存在している。
災害救助犬を育てるには、犬が若いうちに訓練を始める必要がある。まず、意欲付けと言って、例えばボールにじゃれ遊びさせて、引張りっこなどのボール遊びが大好きな犬に育てる。次にこのボールを使って、座れ(停座)、伏せ(伏臥)、待て(立止)、来い(招呼)、後へ(脚側行進)などの服従訓練が行われる。
ある程度服従が出来るようになったら、捜索訓練も並行して実施する。まず飼い主がボールを持ってその場で犬をじらして、犬が吠えたらボールを使って遊ぶ。次の段階では少しだけ離れてしゃがむ、次は少しだけ隠れる、次はもう少し離れるなど徐々に段階を上げて訓練をして行く。犬が飼い主と隠れん坊遊びをある程度出来るようになったら、別の人が同じように隠れん坊遊びの訓練を行う。この隠れた人を探すという遊びこそが、災害救助犬が要救助者を探すという行動そのものになる。
訓練を開始してから認定審査に合格するまでの期間は、犬の資質や訓練の仕方などによって異なるが、早くても1年以上かかるという。また、認定審査に合格してからも、服従訓練は毎日継続して行われ、捜索訓練もいろいろな場所、遭難者役(ヘルパー)も年代性別を変えながら行い、犬にいろいろな経験を積ませて出動に備えている。
大規模自然災害が続発する昨今、災害救助犬の必要性は日増しに高まっているといえる。近年では消防などの救助実施実働機関との連携訓練が活発に行われるようになり、連携活動技術の練磨はもちろん、顔の見える関係構築が進められている。

 

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防災訓練を通し、関係機関との連携を高めている。写真は防災訓練において自衛隊ヘリにより被災地投入されたところ。

 

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日本の救助実施機関においても、いわゆる都市型捜索救助技術への取り組みが活発化している。写真は消防が実施した耐火造建物の破壊・進入訓練に参加し、階下進入を行っているところ。

 

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救助犬やハンドラーの技術向上訓練だけではなく、積極的に救助実施機関との連携訓練を行う。連携力を高めるだけでなく、顔の見える関係構築にも役立つ。

 

■ここもチェック
災害救助犬Q&A(NPO法人災害救助犬ネットワーク)
http://www.drd-network.or.jp/aboutdog/index.html

 


 

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http://www.drd-network.or.jp/

災害救助犬を使って行方不明者の捜索活動を行う。日本における災害救助犬の認知向上に努め、各地の災害に迅速に対応するために組織間の連携ネットワーク化を目指している。

 


 

写真・情報提供:NPO法人災害救助犬ネットワーク(特記以外)

文:Rising編集部

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