開講に向け準備中! ライブ・ファイヤー トレーニング

 日本ではホットトレーニングを体験できる施設が徐々に整備されてきているが、実際の火災現場の環境を再現し一連の火災対応について訓練できる施設は皆無に等しいのが現状だ。消防士としてのスキルアップを望んでも、実災害の現場にて経験を積むしか手段がないというのが実情なのだが、濃煙熱気の中で活動を強いられるような現場に出動する機会も少なく、そもそも火災出動を願う消防士などいない。一方で、火災現場内部という未経験の世界において突発的事象が起こった際に対処できるのかという不安もある。こうしたジレンマを解消する新たな取り組みが注目を集めている。
 消防ホース等の製造販売を行う横井製作所では、三重県伊賀市にある同社の柘植工場において実火災環境を再現できる大規模施設「ファイヤー・ベース」を整備した。平成29年9月に完成したこの施設は大型コンテナを組み合わせて作られており、内部で煙や炎を発生させ疑似火災を起こすことが可能。同社では実際の火災環境における商品テストなどを通して現場に求められる消火装備の提供を目指している。また、同施設の実戦的消防訓練への提供も行われており、特定非営利活動法人ジャパン・タスクフォース(JTF)によるトレーニングコースの準備が進められている。
 同施設ではすでにCFBT(Compartment Fire Behavior Training:区画火災性状トレーニング)に関するインストラクター研修などが行われているが、併せて、現在調整が進められているのが「ライブ・ファイヤー トレーニング(仮称)」である。これは燃え盛る火炎を使った模擬火災現場体験型トレーニングで、欧米などでは基本トレーニングとして初任教育などでも組み込まれているもの。熱環境を体感するホットトレーニングや、燃焼装置を使った消火訓練とは違い、専用訓練施設内で模擬火災を発生させ、その中に身を投じ、火災性状を見て体感しながら各種活動技術を学ぶというのがポイントになる。

 現在はプレコースなどにより講習内容の構成や安全確保について検討が進められているところだが、本コースは2~3日の日程で座学や実技訓練が行われる予定。また、実技訓練では模擬火災を発生させた施設内で行うものがほとんどで、燃焼状況を確認しながら火災性状を学び、退避を判断すべき温度や状況を体験する。他にも、濃煙熱気を満たした状況での強制ドア開放や、脱出・救出要領などを訓練する。さらに、放水やドアコントロールによる火勢抑制も盛り込まれる。欧米で主流だったVES(Vent-enter-search)という手法がVEIS(Vent-enter-isolate-search)に変化してきているように、アイソレート、つまり燃焼室などを隔離させることで未燃焼区画の延焼危険を緩和させるという発想が定着してきている。火災環境の施設内でVEISを実施することで、ドアを開放したら燃焼効率が高まり室内温度が上昇する、閉鎖すれば燃焼効率が低くなり温度上昇が抑えられるといった基本的な変化を体感。あわせて、これらの影響による視界の変化、たとえば燃焼効率の低い状態では不完全燃焼により煤が発生して視界が悪くなり、ライトの光を遮ってしまうので視界が極端に悪くなるといった状況も体感することができる。

 ライブ・ファイヤーの一番の魅力は、濃煙熱気の中で自身の限界能力を知ることができる点。個々の要素は部分訓練により対応できるが、実際の環境の中で一連の訓練を行うことで空気の消費量や体力の消耗度などを把握することができる。また、屋内進入の方法についても、建物構造や火災の状況、要救助者位置、自隊や自身の装備や能力といった要素を総合的に踏まえて行動する「発想力」を養うことができる。
 JTFでは、すでに開講しているファイヤーファイター・サバイバル(火災現場からの生還技術)コースでの「体験」を「経験」へ昇華させるためのコースと位置付けており、施設を運営する横井製作所とともに本コース開催に向けた調整を進めている。

  • 座学では生火を使うライブ・ファイヤーの目的等を含めレクチャーされる。
  • 横井製作所が整備した国内最大規模の施設「ファイヤー・ベース」。立体的な活動などにも対応する。
  • 施設内に入る前はPPEの確認が入念に行われる。
  • 炎が天井をなめ、煙の量が増してくる。施設内の温度が徐々に上昇していく。
  • 高温な可燃性ガスが天井付近に滞留し、頭上を炎が走る。
  • 施設内で模擬火災を起こし、火災性状を見る。他にも、最大火力で限界温度を体感するホットトレーニングも行われる。
  • 天井に向けて照射されたライトの光が、天井付近に滞留したガスに含まれる煤の影響で吸収されてしまっているのがわかる。
  • 天窓を開放し、そこに向け放水を行うことで換気を図り燃焼状況や温度などを調整する。
  • ドア閉鎖による炎の変化を見る。これによりドアコントロールの効果を学ぶ。
  • 訓練後は身体に付着した煤等を水的除染により洗い流す。
  • フォーシブルエントリー(強制ドア開放)の訓練。ハリガンツールとアックスを活用しドアを強制的にこじ開ける。
  • 火災環境を再現した施設内から活動不能状態に陥った隊員を救出する訓練。
  • 煙道の先でダウンしている隊員(ダミー)を救出。辿り着くのも容易ではない。
  • 携帯警報器のアラームを頼りにダウンした隊員の元へたどり着く。
  • 携行した空気呼吸器をダウンした隊員に付け替えてエアアウト対策を施す。
  • 濃煙熱気や活動障害物がセットされた施設内から救出に成功する。

 

※模擬火災を発生させる施設利用については、安全対策として国際基準のインストラクターの主導で行われます。

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:株式会社横井製作所/特定非営利活動法人ジャパン・タスクフォース

写真・文:木下慎次


初出:2019年01月 Rising 冬号 [vol.12] 掲載


pagetop