第52回CSRMベーシックコース
2019年2月2日~2月3日の2日間、兵庫県三木市にある兵庫県広域防災センターの瓦礫訓練施設において、第52回CSRMベーシックコースが開催された。受講者は消防関係者や救助救急に携わる機関に所属する者、医療関係者などから約60名が参加。座学においてCSRMの基礎知識を学んだ後、瓦礫訓練施設での訓練がスタートする。
スキルステーション(実技訓練)ではまず、CSRMに関する各ファクターを1つひとつ体験していく。「人的基本捜索(ベーシックサーチ)」では隊員が横一列に等間隔に並び、助けを求めている人の声や物音を聞き、それに気付いた隊員は片手を挙げ、もう一方の手で聞こえた方向を指し示す。これにより、複数の隊員が指し示すその先が要救助者のいると思われる場所と判断でき、位置特定を迅速に行うことができる。また、他の捜索手法として、阪神救助犬協会の協力の元、ドックサーチのデモンストレーションが披露された。
狭隘空間に閉じ込められた要救助者(傷病者)は発見・接触するまでにも時間を要し、緊急搬出することもできない。また、クラッシュシンドロームに代表されるような特殊な病態にも注意が必要だ。そのためにも「傷病者観察」により要救助者の状態を的確に把握する必要がある。全身接触が可能であれば全身観察、手など身体の一部に接触可能であれば部分接触として脈拍確認などを実施する。
CSRMは狭い空間に進入しての活動。進入技術もさることながら、身動きがとれないくらいに狭い空間で活動する上でのポイントを学ぶ必要がある。「狭隘空間活動」の訓練では瓦礫訓練施設に用意された様々な現場環境にてこれを身につける。
救助隊により実施可能な処置のひとつが「保温・保護」だ。コンクリート等の瓦礫は熱を奪いやすく、さらに失禁などにより要救助者は低体温になる可能性が極めて高い。また、狭隘空間は突起物が多く、これからの保護も必須。この2点をクリアするために実施されるのがシートパッキングだ。訓練ではシートの事前準備や、狭い中で自らも臥位のままパッキングする方法などがレクチャーされる。
ここまでに学んだ手技等を一連の活動として行うのが「指揮進入活動」だ。CSRMを行う際は倒壊建物の中に進入しながら、内部の詳細な状況を外部に報告する必要がある。外部ではその情報から図面を作り、その後の救出活動のプランニングに活用するわけだ。訓練では各小隊内で隊長(指揮者)と進入管理者(進入管理と情報管理を担当)、進入隊員などにわかれ、実際に現着から要救助者接触までの動きを実施。進入という行動を中心に活動全体を統制する事や、伝わりやすい情報の送り方などについて学ぶ。
訓練会の2日目に集大成として行われるのが「シナリオステーション」と呼ばれる想定訓練だ。要救助者は生体で、90分想定で2回実施される。現実的で過酷な環境を再現した中で行われる長時間訓練で、受講者は被災地に入った応援部隊の救助隊として、割り振られた局面にて救助救出活動にあたる。そして、座学やスキルステーション、シナリオステーションの全てが終了すると、受講者へ修了証が手渡された。
大規模地震や土砂災害などが続発する昨今、活動技術の引き出しの一つとしてCSRMが再注目されている。いざの時、確実に「救える命を救う」ため、隊員らは自己研鑽に励む。
■全国救護活動研究会
メーリングリストを活用した日常的な情報交換に加え、大きく分けて4つの活動を行っています。
近年の活動の中心となっているのが「CSRMの研究」。年に2回(3会場、計6回)、全国の消防士が集まって訓練会を実施しています。現在では専門家のエビデンスもとり、CSRMベーシックコースとして開催されています。
また「医療から見た救助活動」として、現在の救助方法を研究し、救命率をより向上させる方法を提案しています。会員には医療従事者も多い事から、様々な視点から意見を得て研究を行っています。
「NBC災害対応の研究」としては、新しいタイプのNBC災害が発生した場合にメーリングリストを活用して、迅速な情報収集と研究を行っています。硫化水素事案では、その危険性を迅速に調査し、全国の消防士に周知しました。また、ショートピックアップや要救助者の迅速な呼吸保護といった新しい概念の重要性を各方面で発表し、現在ではNBC災害対応のスタンダードとして定着しています。
そして「惨事ストレスケア」も研究を実施。精神的ストレス緩和を目的としたチームミーティングの説明資料を作成するとともに、ストレス解除の方法についても説明会を実施しています。
特定非営利活動法人全国救護活動研究会 ホームページ/http://csrm.boo.jp/ メールアドレス/nporiro@yahoo.co.jp
本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。 本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。 |
取材協力:特定非営利活動法人全国救護活動研究会
写真:伊木則人
文:木下慎次
初出:2019年10月 Rising 秋号 [vol.15] 掲載