【神奈川県内】消防重機クローズアップ

 神奈川県内に配備されている消防重機は、性能、サイズ、走行方式、メーカーなどがそれぞれ異なる特徴を持つラインナップとなっており、それらが一堂に会すことで、消防重機の今を知る貴重な機会となった。

 ここでは、第53回消防救助技術関東地区指導会の会場で展示などが行われた重機や搬送車をクローズアップする。

 

横浜市消防局

 

 

 

 同局がこれまで運用していたホイール式ショベルとホイルローダーの2台の後継車両として整備されたのがこの重機搬送車。
 搬送車に重機を積載する方式とすることで、緊急消防援助隊としての広域応援出動などに際しても迅速に展開することが可能となった。
 重機は2機が搭載されており、日本キャタピラー製のクローラ式油圧ショベル308CR(中型機)と301.7CR(小型機)を各種アタッチメントとともに荷台に収容している。

 

△この車両のクローズアップ記事はこちらから△

  • 日本キャタピラー製のクローラ式油圧ショベル308CR(中型機)。
  • 日本キャタピラー製のクローラ式油圧ショベル301.7CR(小型機)。
  • 中型機を下ろす際はあゆみ板を左右に広げる。
  • 更新に伴い、ホイール式からクローラ式に変更された。
  • 小型機を下ろす際はあゆみ板を中央に寄せて使用する。
  • 小型機はクローラ幅を輸送時の990mmから1,300mmに拡幅することができ、狭い現場への進入性と作業時の安定性を両立。

 

川崎市消防局

 

 

 

 先代にあたる車両がトラックシャーシベースの「震災工作車」であり、その名称を引き継ぐ形で平成23年3月14日に「双腕作業機」(重機)と「搬送車」に更新され、中原消防署に配置されている。震災等の大規模災害における道路啓開に加え、倒壊家屋等からの人命救助活動といった活動に威力を発揮する。
 双腕作業機は日立建機製で、2本の腕を装備した多機能型の作業機。Advanced System with Twin Arm for Complex Operationの略から「ASTACO」(アスタコ)と呼ばれる。2本の腕を駆使して「長い物を両腕で折り曲げる」「重いものを片腕で持ち上げながら下にあるものを引出す」といった動作が可能。東京消防庁に続く国内二例目の導入だったが、消防における双腕作業機としては、現在は同車が国内唯一となる。

 

  • 日立建機製の双腕作業機アスタコ・ZAXIS70TF
  • 右作業フロントに備えられた全旋回フォーク(GV30S)と、左作業フロントに備えられたペンチカッター(Z-1)。
  • ペンチカッターも先端でつまむことが可能。両手で対象物を保持して排除することができる。
  • 2つの作業フロントがあるため、搬送時はその間にあゆみ板を逃がす。積み下ろしの際は作業フロントを広げてからあゆみ板を左右に広げる。
  • 積み下ろしの際は誘導員との連携のもとに慎重に作業を行う。
  • 積み下ろしの際は誘導員との連携のもとに慎重に作業を行う。

 

相模原市消防局

 

 

 

 相模原市消防局が運用する緊急消防援助隊の無償使用機の5t重機。相模原消防署緑が丘分署に配置されている。
 東日本大震災での経験を踏まえ、総務省消防庁では消防機関が自ら重機を保有・活用できる体制を整えるため、重機及び重機搬送車の配備を進めている。
 緊急消防援助隊の無償使用装備として配備されている重機は3t級と5t級2タイプで、バケットのほか油圧旋回フォークや油圧ブレーカー、油圧切断機などに交換が可能。また、アーム部分に固定式管鎗を装備しており、自走式放水砲としても活用できる。加えて、ラジコンによる遠隔操作機能も備えており、隊員の接近が困難な危険地帯での活動を可能にする仕様となっている。
 搬送車はスライドキャリア方式を採用し、重機やアタッチメントを迅速に運搬・展開できる仕様で、搭載したクレーン装置により現場での重量物排除にも対応可能となっている。

 

  • 総務省消防庁の無償使用機の5t重機、小松製作所製のPC55MRのキャブ仕様。
  • 搬送車はスライド機構によりボディが地面へ接地するスライドキャリア仕様。
  • バケットの先端には土砂のかき出しなどに便利な平爪を独自装備。
  • メーカーや総務省消防庁と協議の上、バケットにフックを追加装備。
  • 隊長と重機オペレーターのコンタクトにはインカムシステムを使用。

 

横須賀市消防局

 

 

 

 横須賀市消防局では令和3年に油圧ショベルとホイルローダーの寄贈を受け、重機の運用を開始した。油圧ショベルが土砂や瓦礫などの排除を行い、排除された障害物をホイルローダーが後方へ移動させることで、活動を途切れることなく継続することができる。こうしたコンセプトから、作業性や機動性の高いコンパクトな重機2台のペアという運用を行っている。後に、重機搬送車を新たに整備するとともに、令和5年4月に土砂災害機動部隊「LTF(Land slide Task Force)」を発足させ、重機運用体制の強化を図っている。
 同車は横須賀市消防総合訓練センターに配置され、南消防署浦賀出張所の消防隊が乗り換え運用を行う。また緊急消防援助隊にも登録されている。

 

  • 重機搬送車は花見台自動車製のセフテーローダを備えており、スライド機構によりボディが地面へ接地する。
  • 3t級のコンパクトな油圧ショベルとホイルローダーの2台を運用。
  • 油圧ショベルはヤンマー建機製のViO30。
  • ホイルローダーはヤンマー建機製のV3-7。
  • 土砂災害機動部隊「LTF」のエンブレム。

 

厚木市消防本部

 

 

 

 各地で多発する大規模地震や激甚化する自然災害を踏まえ、これら自然災害に対し安全かつ的確、そして迅速に対応することを目的とし、厚木市消防本部では令和6年に3t重機及び重機搬送車を整備した。土砂災害発生時の消防隊員の進路や活動スペース確保、倒壊建物に取り残された要救助者の救出に活用すべく、小型車両系建設機械の運転にかかる特別教育を受講し、日々の訓練を重ねた精鋭隊員が運用を行っている。
 特筆すべきは重機搬送車の仕様。極東開発工業製のスライドダンプを採用しており、ダンプ機構とスライド機構の2つの機構を併せ持っているのが特徴だ。現場では重機搬送車としてスムーズに重機の積み下ろしができるだけでなく、最大積載量3000kgのダンプカーとして、重機により排除した土砂などの後方搬送を担うことができる。

 

  • 油圧ショベルはヤンマー建機製のViO25-6。
  • 搬送車はスライド機構によりボディが地面へ接地する。
  • ピンを差し替えることでテールゲートを開く方向を上下に切り替えられる。
  • ダンプ機構を備えているため、搬送した土砂の排出も迅速に行える。
  • 重機を下ろした後はダンプカーとして活用できる。

 

メーカー展示

 

 

 指導会会場ではメーカーによる機体展示も実施された。写真は日本キャタピラー製のクローラ式油圧ショベル303CR。遠隔操作装置を搭載しており、遠隔操作のデモンストレーションが実施された。

 

 

神奈川県消防学校

 

 

 訓練会場となった土砂災害訓練施設の脇には、神奈川県消防学校が保有する救助訓練用重機(油圧ショベル2台)が置かれていた。これは重機の操作習熟用として令和6年に整備されたもので、アーム先端のアタッチメントを交換することで、掘る、砕く、掴む、切るといった作業が可能。いずれもコベルコ建機製で写真右が7t級のSK75SRDで、写真左が3.5t級のSK35SR。

 

 

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取材協力:令和7年度消防救助技術指導会等開催地事務局/横浜市消防局

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

 


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