東北地区自主勉強会


東北地方の消防職員が企画し広く国内各地から参加者が集まり実施されている「東北地区自主勉強会」では、平成29年1月21日と22日にかけ、新潟県・五泉市消防本部の協力を得て自主勉強会を開催した。この勉強会には講師として都市型捜索救助の伝道師として知らぬ者はいない、在日米海軍統合消防局の草場秀幸氏が参加。内容についても「今だから草場氏に訊きたい!」という海外の消防活動トレンドについて幅広く網羅し、座学に力を入れた文字通りの勉強会となった。

 

座学で学びを深める


まず最初に行われたのが消防活動(火災防禦)について。近年では日本の消防活動においてもPPV(陽圧換気)戦術が取り入れられつつあるが、アメリカにおいてはフローパス(流路)の制限という考え方が取り入れられているという。これはドアや窓などを開閉することで流路をコントロールし、燃焼の3要素を構成する酸素の供給を断つという考え方。最先着隊小隊長が現場一巡を行う際に、開放されているドアや窓などを閉鎖。進入口となる玄関ドアについても開閉のコントロールを行う。これにより酸素供給を断ち火勢を弱め、適切な放水を即座に実施して火源を叩くわけだ。日本国内の建物事情にマッチする戦術かは現段階では不明だが、ひとつの手法として説明があった。

 

RITとは何か


続いてのテーマがRITについて。近年では消防隊員の生還術として日本においても注目されている要素だが、一方で、手技面ばかりに意識が向きがちとなっている。こうした実情を踏まえ、草場氏によりRITとは何かという初歩の初歩、さらにはRIT(=即時介入隊を指し、脱出不能に陥った隊員を救出する要員)が活動しないで済むたできる基礎訓練として、目隠し状態でホース結合金具の手触りでオス・メスを判別し、障害物を踏破しながらポンプ側にホースを辿って脱出を図る訓練や、携帯警報機のアラームの音を頼り離れた場所から目隠し状態で携帯警報機を探す「パスドリル」について、体験訓練が行われた。
参加者の中でも注目度が高かったのが土砂災害・トレンチレスキューについて。両者は似て異なる災害形態となるが、活動手技や安全管理面などで相互応用可能な要素が多分にある。こうした観点のもと、平成27年に総務省消防庁が行った「土砂災害時の救助活動のあり方に関する検討会」の委員としても参加していた草場氏が、活動のポイントやアメリカにおけるトレンチレスキューの手法などについて解説を行った。

 

行く手には障害物が用意されており、時には空気呼吸器を離脱して踏破する(写真左)。 道標となるホースから手を離す際も必ず身体の一部で確保しておく(写真右上)。

 

鳴動した携帯警報機を目隠し状態で探し出す(写真左)。屋内では電子音が反射し、なかなか位置を把握することが難しい。コツはなく、訓練を積み自分なりの感覚を掴むのがポイント(写真右上)。

 

 

 

実技訓練で学びを深める

 

勉強会の締め括りとして行われたのが都市型捜索救助(USAR)技術。ここでも座学により建物倒壊のパターンについておさらいし、クリビングやブリーチングなどの基本について学ぶ。2日目午後からは屋外訓練場にステージを移し、実技訓練を実施。五泉市消防本部救助隊による展示に続いて、参加者が実際にリフティング・クリビング・ブリーチングなどを行った。実技訓練が始まると同時に天候が悪化。吹雪の中での訓練となり、参加者は頭や肩に雪を積もらせながら訓練に臨んでいた。
今回の勉強会は時間の限り様々な要素を盛り込んだ、具沢山さが特徴といえる。「ただの実技訓練なら自分らだけでもできる。せっかく草場氏を招くのだから座学を軸にし、今、草場氏に訊きたい内容を詰め込んだ」と主催者は話す。
新たなヒントを見つけ出し、そこから学びを深めていく。参加者にとって自主勉強会の醍醐味を存分に味わえる、濃密な2日間となったようだ。

 

バールを活用してのクリビング訓練(写真左)。ブリーチング訓練ではエンジンカッターに より、まず切り込みを入れる(写真右上)。電動ハツリ機でコンクリートを崩していく(写真右下)。

 

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:五泉市消防本部[新潟県]

写真・文:木下慎次


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