3.11 東日本大震災を忘れない[福島県] 特別編

 

原発事故に伴う放射線の影響で
緊急消防援助隊の応援を得ずに対応を続けてきた双葉の隊員たち──。
極限状態で活動を続ける“仲間”に
手を差し伸べることができなかった全国の隊員たち──。
様々な思いを胸に、全国初の取り組みとなる
「福島支援全国消防派遣隊」が実現した!

 


東日本大震災が発生した平成23年頃は、いわゆる団塊世代の大量退職が全国的な懸案事項として消防を悩ませていた。双葉消防本部においても退職者が短期間に集中し、平成24年度末時点で人員数が125名から103名に減少することになった。これに対し8名を新規採用したが、4月から9月までの期間は初任教育のため消防学校への入校を控えており、当該6ヶ月間の現場活動は103名での対応を強いられることになった。
平時であれば何とか対応できるところであるが、東日本大震災、そして福島第一原子力発電所事故という過酷な現実に直面している状況において、これはかなり厳しい。さらには、双葉郡内各町村の消防団員が避難し活動が休止してしまっており、消防団という頼もしい存在も失ってしまっていた。また、人気のなくなった警戒区域では何らかの原因で火災が発生した場合、発見が遅れて大規模化してしまう恐れがある。そこで、新たに24時間体制での巡回警戒を充実させ、火災の早期発見・通報・早期消火による大規模化への抑止を図らねばならない。さらに、避難指示解除準備区域等に入域する住民への救護対応等の充実など、これまでより少ない人員でこれまで以上の消防業務が求められる非常に困難な事態となっていたのだ。
こうした現実を踏まえ、双葉消防本部では福島県、福島県内消防本部、各自治体並びに総務省消防庁に人的支援を要請した。

 

 

この結果実現したのが、消防における「人的支援」という全国で初めての試みだ。平成25年4月1日〜平成25年9月30日までの期間に全国22の消防本部から、計195名の消防職員が集結。「福島支援全国消防派遣隊」として「双葉のために」という強い思いを胸に、双葉消防本部の職員としての身分を併有して双葉の地での通常消防業務にあたった。
この人的支援は「地方自治法第252条の17の規定に基づく派遣」という扱いとなり、派遣隊員は所属する自本部の身分とあわせ、派遣先である「双葉消防本部の職員」という身分をあわせもつことになる。そこで、派遣隊員に対しては双葉消防本部消防長より辞令書が手交される。1派遣につき約12名、2週間程度のスケジュールで派遣が行われ、1勤務24時間、2交替制で消防業務に従事する。平成25年4月1日から9月30日までの183日にわたる期間中に第16次派遣隊までが応援に駆けつけ、596回の警戒活動並びに火災3件・救助5件・誤報22件を含む62件の災害活動に従事した。この人的支援の特徴が、全国から百戦錬磨の消防職員が集結し、派遣先で受援本部職員と共に通常勤務を行うという点。そこで、警戒・災害出動以外にも警防・救助訓練、警防調査や教養等といった活動が行われ、延べ469回実施された。
団塊世代の大量退職の影響としては、組織的な若年化も懸念されるところだ。こうしたタイミングで全国からの消防職員とともに活動し、訓練などを重ねることは双葉消防本部の職員にとって非常に貴重な経験であり、かけがえのない財産となったという。また、東日本大震災の発災以降、間断なく過酷な現場対応をしてきたことで疲弊しきった環境に「新たな風」が吹き込まれたことで、目標や希望を見出すことができ、活力を得て組織全体が明るくなったという声も聞かれた。
過酷な状況の中で現在も双葉郡内を守る双葉消防本部の職員にとって、全国の消防人が常に見守ってくれているということも、大きな支えになっていると言う。

 

  • 双葉郡内の警戒活動の様子。
  • 避難指示区域内の警戒活動中に空間線量モニタリングを実施する。
  • 警戒活動後のスクリーニング。
  • 川に転落した要救助者を派遣隊と連携して救出する。
  • 道路を塞ぐ倒木を除去する。活動中も常に空間線量に注視する。
  • 派遣隊と双葉消防職員による資機材取り扱い訓練。
  • 避難指示区域内の山中で火災が発生。水利がなく車両も接近不能であることからジェットシューターとスコップにて鎮火させた。
  • 避難指示区域内の山中で火災が発生。水利がなく車両も接近不能であることからジェットシューターとスコップにて鎮火させた。

 


 

現場写真提供:双葉地方広域市町村圏組合消防本部

インタビュー:伊木則人

文:木下慎次

 


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