平成29年度 消防研究センター 一般公開

 

消防研究センターでは、平成29年度科学技術週間(4月17日(月)から23日(日))における行事の一環として、平成29年4月21日(金)に研究施設などの一般公開を実施した。同センターは消防や防災の科学技術に関する研究・開発を総合的に行う、総務省消防庁の研究機関。昭和23年(1948年)に当時の国家消防庁の内局として消防研究所が設置され、平成18年(2006年)より消防大学校の所属となり、現在の名称に変更された。活動内容は消防資機材の開発や火災原因究明のための調査・試験など多岐にわたり、毎年実施されている一般公開ではこうした活動について展示が行われ、最先端の消防科学技術に触れることが出来る。ここでは今年度の展示内容よりいくつかをご紹介しよう。

 

糸魚川市駅北大火をふまえて・・・

消防研究センターには排煙処理設備を備えた大規模な火災実験施設があり、ここにおいて火災性状や消火技術などの展示が行われる。本年度は平成28年12月22日の糸魚川市駅北大火発生を受けて「火の粉の加害性の実験」が実演展示された。この火災では火の粉による飛び火によって火災が急激に拡大し、甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。こうした火の粉による被害拡大に対して適切な対処をするため、「火の粉が何に対しどのように着火するのか」をテーマに、消防研究センターの大規模火災研究室では米国国立標準技術研究所(NIST)と共同で研究を行っている。通常は火の粉発生装置(NIST Dragon)を用いて火の粉を発生させ、建物の屋根や壁、建物周辺の可燃物に対してどのような影響を与えるのかが実験されている。これにより、屋根を対象とした実験では火の粉が屋根瓦の下に潜り込む現象を確認。20分間の実験では着火には至らなかったものの、桟木には焦げが確認された。可燃物(ウッドチップ)を対象とした実験では数個の火の粉が可燃物に着火し、燻煙燃焼の後に有炎に至る様子が確認されたという。この日の実演展示では可燃物にシュレッダーダスト(紙を裁断したもの)を使用。火の粉発生装置から飛び出した小さな火の粉が飛散し、着火する様子が紹介された。

 

糸魚川市駅北大火の概要

 

糸魚川市駅北大火は平成28年12月22日(木)10時20分頃に発生し、翌23日(金)16時30分の鎮火に至るまでの約30時間続いた大規模火災。冬場としては珍しいフェーン現象で乾燥した南からの強風にあおられ、消失範囲は約40,000平方メートル、火元から約300メートル離れた日本海沿岸まで燃え広がり、火災としては初めて被災者生活再建支援法(風害による)が適用された。

 

【焼損棟数】147棟(全焼 120棟 半焼 5棟 部分焼 22棟)
【焼失面積】約40,000平方メートル(被災エリア)
【焼損面積】30,412平方メートル
【負傷者】 17人(一般2人 消防団員15人)※中等症1人 軽症16人
【被災者状況】145世帯260人 55事業所
(平成29年2月14日現在)

 

【気象状況】
平成28年12月22日 気温 18.4℃ 湿度 54.7%(11時現在)
最大瞬間風速 27.2m/s 南南東(11時40分)

出典:糸魚川市ホームページ

 

太陽光発電システムの発電抑制技術

太陽光エネルギーを利用した太陽光発電システムは一般住宅などに広く普及してきている。この普及に伴って同システムに関連した発熱・発煙・火災事例も増加しつつあるのが現状だ。電柱から給電される商業電源の場合、緊急時には電路を遮断すれば給電を停止できる。しかし、同システムが設置された建物は、日照がある限り発電を止めることができず、消火活動時も給電状態が継続する。さらに、一部が破損していても発電が継続し、火炎の光でも発電するため夜間の火災時であっても発電され続ける。つまり、同システムが設置された建物で発生した火災は、消火活動時の感電危険性を取り除くことが極めて困難であり、再出火といったリスクも払拭できないのだ。

そこで注目されているのが「太陽電池モジュールに対する発電抑制技術」だ。

米国では2011年に遮光シートによる発電抑制実験が行われ、その結果、適切なシートを用いれば発電抑制は可能だがシート設定に際して太陽電池モジュールへの接近が必要な点や、その作業中は感電リスクを排除できていないという点が課題として残った。また、泡消火薬剤を用いて遮光する方法も研究されたが、こちらは時間経過により泡が消失するため十分な遮光効果が得られないということがわかった。

こうした諸外国での研究結果なども踏まえ、同センターと民間企業により共同研究が進められている。

安全確実な遮光作業を実現するためには、

  1. 高い発電抑制性能が確保でき、感電に対して安全な電圧・電流まで抑制できること
  2. 太陽光発電システムに接触することなく、離隔した位置から作業できること
  3. 屋根上の傾斜面や壁の垂直面に設置されたモジュールにも対応し、持続的に性能を維持できること
  4. 原状復帰が容易であること
  5. 環境に対し安全であること

が条件となる。これらを踏まえ「応力の印加と共に粘性が低下し、時間と共に粘性が回復する特殊な薬剤」を用いて、薬剤の噴射と定着を両立させ、太陽光発電システムを安全に遮光するという技術が研究中だ。

 

発電抑制用遮光剤噴射装置は、遮光剤の入った6Lタンクを空気ボンベ(消防で使用されている一般的なもの)で加圧し、接続した10mホースを経て専用ノズルから放射される仕組み。噴射範囲は左右各4m×前方4m=32m²(太陽光発電システム約5kW相当)で、6Lタンクの遮光剤にて約6m²(太陽光発電システム約1kW相当)に対応可能だ。

 

4枚の太陽電池モジュールにより、実験開始前の初期値で約162kWが出力されている(写真1)。これに遮光剤を噴射。1枚あたり約10秒で遮光措置が完了する(写真2)。4枚すべての遮光措置が完了。写真奥の壁面を見ると、垂直面にも遮光剤がしっかり貼り付いているのがわかる(写真3)。遮光措置が完了後は約2kWまで出力を抑えていることがわかる。2年後の実用化を目指し、現在も研究が進められている。

 

多言語音声翻訳アプリ『救急 VoiceTra』

同センターと国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)では、救急隊用の多言語音声翻訳アプリ「救急ボイストラ」を開発し、全国の消防本部に対して今月から提供を開始。この展示も行われた。
救急ボイストラはNICTが開発した多言語音声翻訳アプリ「VoiceTra(ボイストラ)」をベースとし、救急現場で使用頻度が高い会話内容を「定型文」として登録。外国語による音声と画面の文字により円滑なコミュニケーションを図ることが可能になるというものだ。もちろん、定型文以外の会話でも音声翻訳が可能となっており、さらに、話した言葉が日本語文字としても表記されるため、聴覚障害者などとのコミュニケーションにも活用が可能。現在はAndroid版の先行提供が行われており、iOS版は平成29年度中に対応する予定だ。

 

【対応言語】 15言語に対応

 (1)英語 (2)中国語 (3)韓国語 (4)スペイン語 (5)フランス語 (6)タイ語 (7)インドネシア語  (8)ベトナム語 (9)ミャンマー語 (10)台湾華語 (11)マレー語 (12)ロシア語 (13)ドイツ語  (14)ネパール語 (15)ブラジルポルトガル語

 

出典:NICTchannel

 

ドラゴンハイパー・コマンドユニット専用装備も!

東日本大震災での教訓から、石油コンビナート・化学プラント等のエネルギー・産業基盤 の被災に備える緊急消防援助隊の特殊災害対応に特化した部隊として創設された「ドラゴンハ イパー・コマンドユニット(エネルギー・産業基盤災害即応部隊)」。平成26年に市原市消防局と四日市市消防本部、平成27年に静岡市消防局、平成28年に神戸市消防局に対して部隊の中核車両となる「大型放水砲搭載ホース延長車」と「大容量送水ポンプ車」が配備され、平成30年度末までに全国12地域に編成される予定だ。
そして現在、同隊のための消防ロボットの研究開発が行われているところであり、平成30年度の完成に向け、平成28年度に試作機が完成し、今回展示が行われた。
「放水砲ロボット」は隊員が近づけない場所にて消火冷却を効果的に行い、「ホース延長ロボット」は呼称150の大口径ホースを最大300mまで自動敷設して放水砲ロボットに効率良く水を供給する。これら2機種は「偵察・監視ロボット」(飛行型および走行型の2機種)ならびに「指令システム」とで「消防ロボットシステム」を構成し、消防車1台に搭載されて現場に移動することができる設計になっている。
従来の消防ロボットは隊員の直接・遠隔操作を基本としていたのに対し、本システムでは3次元空間認識技術や自己位置認識技術を利用した自律的移動技術が盛り込まれているのが特徴。より「ロボット」のイメージに近い性能が与えられている。

 

出典:DiscoverMHI (Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)

 

出典:DiscoverMHI (Mitsubishi Heavy Industries, Ltd.)

 


 

写真・文:木下慎次


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