伝説の車両がミュージアムへ!救助工作車寄贈式

 神奈川県の藤沢市消防局では、運用を終えた救助工作車をいすゞ自動車株式会社に寄贈。同社の藤沢工場隣接地にある展示施設「いすゞプラザ」(藤沢市土棚8)の展示車両に加わることになった。

 この救助工作車は2005年12月に納入され、高度救助隊により2021年3月まで運用が行われていたもの。市内で多くの災害に出動するとともに東日本大震災にも派遣され、衛守玄一郎消防局長も同車を「頼もしい相棒」と呼ぶほどに、藤沢市消防局にとって深い思い入れがある一台だった。そこで同車とその功績を後世に残すことができないかと考えいすゞ自動車に打診し、今回の無償譲渡に繋がった。

 2021年11月10日(水)にはいすゞプラザにおいて、藤沢市長や藤沢市消防局長、いすゞ自動車関係者による寄贈式が行われた。また、寄贈を記念して、2021年11月11日(木)~11月27日(土)の期間、いすゞプラザ1F展示エリアでの特別展示が行われたが、今後も同館での展示や、同社の進める社会貢献活動、防災啓発イベントなどでこの車両を活用する予定だという。

 

 

 

キャブバス型の代名詞として広く知られた伝説の車両

 

同車は運用開始後に運用隊や本部名の変更があったため、標識灯は「南救助」から「高度救助」へ、「藤沢市消防本部」から「藤沢市消防局」へそれぞれ変更。AED搭載車のマーキングも残されたままとなっている。

 この救助工作車III型は藤沢市消防局が救助体制の強化を目的に製作したもので、III型としての広域応援出動を念頭に設計されている。最大の特徴といえるのが唯一無二の四角いフォルムの車体形状。長距離移動に伴う乗車隊員の負担軽減や、長時間に及ぶ活動現場での隊員休息スペースに活用できるよう、車内スペースを最大限に確保することをテーマとしている。

 同車が製作された2005年当時は、消防自動車の車内空間拡充策としてハイルーフ仕様が徐々に増えだしていた頃。そうした中、同車ではハイルーフ化(上方への空間拡充)だけでなく前後左右へも空間拡張し、最大限に車内空間を確保することを目指した。その結果、独自デザインのオリジナルキャブが誕生し、キャブ部分のみをバス型とする「キャブバス型」という消防自動車の新たなスタイルを確立させた。

 原型がわからぬほどの独自感あふれる車体形状の同車だが、ベースとしているのはいすゞフォワードの高床4WDシャーシ(FTS)。積載庫と分離したオリジナルキャブは6名分の座席を備え、運転室から後部座席までがウォークスルー構造でつながったバス型構造。運転席と助手席ドア、左中折れ扉は可能な限り開口面積を広くとり乗降性を向上させることで、現着後の動き出しを迅速に行えるよう配慮している。

 キャブやシャシの設計、改造工事はいすゞ車体が担当。積載庫や消防自動車としての最終艤装を帝国繊維が担当した。車両にはクレーン・ウインチ・照明装置・高圧噴霧消火装置が搭載されており、4連油圧ポンプ構造を採用することで、照明+いずれかの装置を使用するという形の併用操作を可能にしている。また、高圧回転による損傷を防止する自動エンジン回転制御装置も装備されている。

 同車は2009年7月1日に発隊した高度救助隊「SuperRescue」の基幹車両として運用され、2011年3月11日に発生した東日本大震災では仙台市に緊急消防援助隊として出動。車両更新により運用廃止となる2021年3月までの間、多くの人命を救ってきた。キャブバス型という新たなスタイルを確立させた同車は、消防装備史に名を刻む伝説の車両といえるのである。

 

寄贈式では車内や積載庫も公開された。

 

  • 市内対応と広域応援対応の二面性を備えるべく、空間が広くとれるバス型キャブを採用した救助工作車III型。
  • 積載庫部分もスクエア形状とすることでキャパを最大限に確保している。
  • 過酷な環境での15年に及ぶ運用にて生じた傷みも丁寧に補修され、大切に使われてきたことがわかる。
  • レアな光景と言える空となった積載庫内。寄贈に積載資機材は含まれておらず、車上の梯子昇降装置も空の状態。
  • 高圧噴霧消火装置。
  • 車両バッテリーはメンテナンス性を考慮し積載庫内に設置されている。
  • 油圧取り出し部を回避して収納として使えるようにした隊員手製の棚。運用当時の雰囲気を唯一残すアイテムだ。
  • リアバンパー部に備えられた燃料タンク。
  • ウインチはロッツラー製の前後引きモデル。展示車両として飾りナンバープレートが取り付けられている。
  • 艤装を担当した帝国繊維の銘板。
  • 車内空間を最大限に確保すべくスクエア形状のキャブとしているため、キャブ天井部の作業台も広いスペースが確保されている。
  • 後部には3段ブーム式で最大作業半径7.7mまで対応するユニック製クレーンを装備。
  • キャブ内部の状況。後部座席をそれぞれ壁側に配置することで、中央部分に空間を確保。
  • 前列(運転室)から後列(後部座席)までは自由に行き来ができるウォークスルー構造。
  • 運転席以外は当時普及し始めた空気呼吸器内蔵型シートを採用。これにより別途空気呼吸器の積載部を確保せずに済んでいる。
  • 見るからに通常より広いドア開口部。乗降性も追求した仕様となっている。
  • ダッシュボードより前の黒く塗られた部分に注目。この分、前方にも延長されているのがわかる。
  • 写真中央が切断部にフタがされた元のAピラー。

 


 

キャブやシャシの設計、改造工事はいすゞ車体が行い、積載庫や消防自動車としての最終艤装を帝国繊維が担当した。(写真は展示映像より)

 

SPEC DATA
車名 いすゞ
通称名 フォワード
シャーシ型式 PJ-S34H4
全長 8560mm
全幅 2500mm
全高 3330mm
ホイルベース 4250mm
最小回転半径 9m
車両総重量 13510kg
乗車定員 6名
原動機型式 6HK1
総排気量 8000cc
駆動方式 4×4
運用年 2005年12月~2021年3月
キャブ・シャーシ架装 いすゞ車体
艤装 帝国繊維

 


 


 

お 知 ら せ
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

 


 

取材協力:藤沢市消防局/いすゞ自動車

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

 


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