第63回CSRMベーシックコース

 2023年8月19日~8月20日の2日間、兵庫県三木市にある兵庫県広域防災センターの瓦礫訓練施設において、特定非営利活動法人全国救護活動研究会が主催する第63回CSRMベーシックコースが開催された。安全管理上の配慮から、暑さが厳しい8月にコースを開催することはこれまでなかったが、夏期発災時の活動を体感しておきたいといった要望は以前より多く寄せられていた。こうした点を踏まえ、今回、初となる8月のコース開催が実現した。

 受講者は消防関係者や救助救急に携わる機関に所属する者、医療関係者などから約60名が参加。座学においてCSRMの基礎知識を学んだ後、瓦礫訓練施設での訓練が行われた。

 まずはスキルステーション(実技訓練)として、CSRMに関する各要素を学んでいく。「人的基本捜索(ベーシックサーチ)」では隊員が横一列に等間隔に並び、助けを求めている人の声や物音を聞き、それに気付いた隊員は片手を挙げ、もう一方の手で聞こえた方向を指し示す。これにより、複数の隊員が指し示すその先が要救助者のいると思われる場所と判断でき、位置特定を迅速に行うことができる。また、阪神救助犬協会の協力の元、ドックサーチのデモンストレーションが披露された。

 他にも、要救助者の状態を的確に把握するための「傷病者観察」、身動きがとれないくらいに狭い空間で活動するポイントを学ぶ「狭隘空間活動」、要救助者を低体温や突起物などの物理的障害から守るためにパッキングを行う「保温・保護」などがレクチャーされる。

 ここまでに学んだ手技等を一連の活動として行うのが「指揮進入活動」だ。CSRMを行う際は倒壊建物の中に進入しながら内部の状況を把握し、その情報から図面を作り周知を図った上で救出活動のプランニングが行われる。訓練では各小隊内で隊長(指揮者)と進入管理者(進入管理と情報管理を担当)、進入隊員などにわかれ、実際に現着から要救助者接触までの一連の動きを実施した。

 訓練会の2日目に集大成として行われるのが「シナリオステーション」と呼ばれる想定訓練。現実的で過酷な環境を再現した中で行われる長時間訓練で、受講者は被災地に入った応援部隊の救助隊として、割り振られた局面にて救助救出活動にあたる。

 2日とも日中は最高気温が30度を超える暑さの中で行われた今回のコースでは、指導内容や想定にも「暑さ」という要素が反映された。たとえばパッキング。通常であれば要救助者の全身をシートで完全に覆うが、猛暑の中これを行えば即座に要救助者は熱中症でダウンしてしまう。そこで状況に応じて半身のみを覆うといった点がレクチャーされた。

 座学やスキルステーション、シナリオステーションの全てが無事終了すると、受講者へ修了証が手渡され、初めて真夏に開催された2日間のコースも無事に幕を閉じた。

 

 

■全国救護活動研究会


 CSRMとはConfined Space Rescue & Medicineの略で、狭隘空間における救助救急医療活動を指す。特定非営利活動法人全国救護活動研究会では全国の救護活動関係者に同会で深く研究したCSRMの基本技術を伝えることを目的に「CSRMベーシックコース」を開催している。コース内容はFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)の教育内容を基に日本向けに調整して作成したもの。専門家からエビデンスもとり、ベーシックコースの名にふさわしい「基礎が学べる場」として注目を集めている。また、訓練会は全国の救護活動関係者が情報交換や顔の見える関係を構築する場としても位置付けられている。


特定非営利活動法人全国救護活動研究会 ホームページ/http://csrm.boo.jp/
メールアドレス/nporiro@yahoo.co.jp

 

 

  • 座学にてCSRMの基礎知識について学ぶ。
  • 人的基本捜索(ベーシックサーチ)の展示。
  • ドックサーチのデモンストレーション。
  • 瓦礫の中をイメージし身動きがとりにくい状況での傷病者観察を学ぶ。
  • 両方向から狭所に進入し内部で互いを交わしながらすれ違う狭隘空間活動の訓練。
  • 通常は全身を包むようにパッキングを行うが、気温が高い場合の方法として半身のみを覆う方法が示された。
  • スケッドストレッチャーによる搬送の訓練。
  • 指揮進入活動の訓練は進入管理者や進入隊員などにわかれて行う。
  • 少しでも暑さが和らぐようにとミスト噴霧が行われる。
  • 実災害を想定したシナリオステーション。転覆車両を進入口とし、狭隘空間へ進入を図る。
  • 行く手を阻む瓦礫を移動させ、徐々に前進する。
  • 要救助者に接触すると直ちに観察を行う。
  • 脱出した隊員自らが内部の状況を図面化する。
  • 内部進入を前に個人防護装備のチェックを行う。
  • 要救助者の救出に成功。

 

 

 

生存空間を立体的にイメージできる「可倒式スタディ模型」の展示

訓練ユニットの検討模型としてだけでなく災害現場における状況分析ツールとしても活用できるのが特徴。

倒壊を再現した状況。ソファーによりボイドができ要救助者が生存可能な空間があることがわかる。

 日本大学理工学部では余震による残存建物の二次倒壊等の危険要因を複合的に訓練できる施設「可倒式訓練ユニット」の開発を進めており、そのスタディ模型となる「可倒式スタディ模型」の開発を行った。

 この模型は震災時に倒壊する可能性が高い旧耐震基準の木造家屋の構造を再現したもので、1階天井(2階床)を倒壊させることで、倒壊家屋内で想定される構造躯体・人・家具の状況を簡易的に再現できる。関係者からの情報をもとに家財などを配置すれば、どの位置に生存の可能性があるボイドができるかといった情報を把握することができ、救助活動の効率化に繋がると期待されている。ベーシックコースではこの模型が展示された。

 

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:特定非営利活動法人全国救護活動研究会

写真・文:木下慎次


初出:2024年1月 Rising 冬号 [vol.32] 掲載


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