横浜市中消防団 誕生

 横浜市の臨海部の中央に位置する中区は約21平方キロメートルの面積を有する。開港以来の歴史的・文化的資源が数多く存在するとともに、新たなにぎわい創出に向けたまちづくりを行っており、市内有数の観光地という側面もある。

 横浜市では各行政区ごとに消防団が設置されているが、中区のみ3消防団が置かれ、18行政区に20消防団という体制がとられてきた。その中区の3消防団が2024年4月1日に統合し、新たに「横浜市中消防団」が誕生。発足式が2024年4月13日、横浜市役所のアトリウムで行われた。

 中区の3消防団は今からさかのぼること130年前、1894年(明治27年)に消防組設置令が公布され、同年5月に編成された伊勢佐木、石川(現・加賀町)、山手の3つの消防組がルーツであり、後に「伊勢佐木消防団」「加賀町消防団」「山手消防団」となり、地域の安全と安心を守るため活動を行ってきた。

 長年に渡り3消防団体制を維持してきたのは、中区の地域特性に理由がある。3消防団が守備する地域はそれぞれ、伊勢佐木は繁華街、加賀町は官公庁や中華街といった観光スポット、山手は閑静な住宅地というように、地域性が極端に異なるのだ。こうした背景から、3消防団に分かれている方が、より地域に密着して活動することができたのだ。

 一方で、長い歴史を誇る中区の3消防団では、各消防団長が統合に向けた検討や話し合いを繰り返してきた。地域密着型の活動が行いやすい反面、3消防団に分かれているということで、指揮命令系統が複雑化する。大規模災害時には伊勢佐木は中消防署、加賀町は山下町消防出張所、山手は本牧和田消防出張所とそれぞれ情報共有して活動することになるわけだ。

 先の東日本大震災では、各地で消防団員が活躍する一方、情報が行き届かず、消防職員さえ遥かに上回る254名もの殉職者が出てしまった。この教訓から、消防団員の安全を確保した上で使命を全うすること、何より人命こそが復興の礎になるのだと考えた中区の3消防団では「市民の生命、身体や財産を守るという崇高な使命を果たすため、指揮命令系統を一本化し、来たる大規模災害に一刻も早く備えるべき」と決断。2021年に当時の3消防団長が「新生消防団への提言」を中消防署長に提出し、統合へ向けた取り組みがスタートした。

 大規模災害に対しての消防団の位置づけが以前にも増して大きくなっていること、指揮命令系統の一本化による活動の効率化や団員の安全確保により大規模災害に備えるという観点から、統合して新たなスタートを切った「中消防団」。同団では旧3消防団の長い歴史と良き伝統を受け継ぎ「消防団に誇りと責任を!」という想いのもと、消防団をさらに強い組織に変え、将来を担う優れた人材の育成に一層取り組み、地域防災のリーダーとして、使命遂行に邁進することにしている。

 

  • 発足式は横浜市役所のアトリウムで行われた。
  • 市長より中消防団の高橋団長へ団旗が授与される。
  • 中消防団の名前が入れられた消防団旗。
  • 真新しい団本部の木製銘板。
  • 高橋団長より各分団へ分団旗・分団銘板が授与される。
  • 発足式にて整列する中消防団の皆さん。
  • 屋内展示スペースでは「消防団の歴史」として歴代の防火装束などが展示された。
  • 市役所屋外には防災体験コーナーなども用意された。
  • 防災指導車(地震体験車)での地震体験コーナー。
  • 電動ミニ消防車・救急車乗車コーナーも大人気。
  • 初期消火体験コーナー。
  • 屋外では消防団車両の展示も行われた。側面の表示も「横浜市中消防団」に変更されている。
  • 右から高橋伸昌氏(中消防団団長)、添田勝夫氏(旧山手消防団団長)、三浦順治氏(旧加賀町消防団団長)、永田二朗氏(旧伊勢佐木消防団団長)

 


 

 


 

取材協力・写真提供:横浜市中消防団/横浜市中消防署/横浜市消防局

写真(発足式)・文:木下慎次


初出:2024年7月 Rising 夏号 [vol.34] 掲載


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