吉岡町消防団の新消火戦術が始動

 群馬県のほぼ中央に位置する吉岡町は、県庁所在地である前橋市の隣に位置しており、20・46平方キロメートルの面積に約2万人の人々が暮らしている。同町を守る吉岡町消防団は、団本部のもと第1~5分団が組織されており、定員は団長1名、副団長2名、各分団25名の計128名で、実員数は69名となっている。吉岡町消防団では2025年より新消火戦術を取り入れ、火災現場における活動内容の見直しを始めた。

訓練が実施された令和7年9月7日に正式デビューとなった吉岡町消防団のマスコットキャラ「吉岡はにまろ」。

 現状、火災現場での消防団活動は瓦礫除去やホース撤収といったものが中心となってしまっており、現場へ急行してもその活動を始めるまでには長い待機時間を強いられる。現場の最前線で常備消防との温度差を痛感させられることとなり、結果として、火災現場に出動するたびに消防団員としてのモチベーションが削られるというケースが少なくない。装備面や安全管理を考慮すれば致し方ないという現実がある一方で、建物や都市構造の変化に伴い常備消防が消火戦術の進化を進める昨今、「消防団が緊急走行で現場に行く意味はあるのか?」「火災現場に消防団は必要なのか?」といった消防団員の疑問や不満の声が、以前にも増して多く聞かれるようになっている。

 吉岡町消防団においても同様の課題や不安の声が上がっており、改善策の検討が求められていた。しかし、具体的に何をどのように進めていけばよいのかという明確な答えはなかなか見つからなかった。そこでまず、同団の幹部団員である団長や副団長、各分団の分団長や副分団長によって、現状の整理と今後目指すべき姿について話し合いが行われた。この話し合いでは、火災現場における活動内容を改めて見直すことで、より効果的かつ安全な活動の実現や現場での消防団の役割の再認識、さらには団員一人ひとりの士気やモチベーション向上につなげることを目指し、具体的な改善策が検討された。

 吉岡町消防団が意識したのは、火災現場においていかに消防団が達成感の持てる活動ができるかという点である。まず、団本部を中心とした明確な指揮命令系統による活動を徹底するよう改めた。従来であれば現場に到着後、本署指揮隊からの指示待ちとなりがちだったが、消防団においても団本部(団長及び副団長)が現場にて指揮本部を立ち上げ、本署指揮隊との連携を図りつつ指揮を執ることが明確化された。また、団本部より前に各分団が現場到着した際は、最先着分団の指揮者が団本部指揮代行として戦術指示を出すこともルール化した。

 こうした明確な指揮命令系統のもとに行うのが、令和7年6月に考案された新消火戦術である。

 先着した車両種別を考慮しつつ消火栓等の水利に頼らない消火戦術として「壱」「弐」「参」の3パターンを策定し、状況に応じて使い分ける。また、仕事の関係で団員が集結できず、2名で出動せざるを得ない場合の「少人数火災対応」も考慮しているのが特徴である。

新消火戦術として3パターンを策定し、図解したマニュアルが各分団に配布されている。

 第2、4、5分団が運用する水槽付ポンプ車の先着を想定したのが積載水集結型「壱」。第1、3分団が運用するポンプ車の先着を想定したのが積載水送水型「弐」。いずれも最先着した分団車両を火点直近部署させ、後着分団が積載水と人員を投入するというものだ。そして先着隊が直近水利部署した場合を想定したのが「参」。先着隊は早期消火活動として第1線の放水を開始し、次着隊は先着隊に人員投入し、第2線放水を開始。2線2口を確保する。

 新消火戦術の策定は迅速な消火活動の展開はもちろんであるが、どの状況で何が必要になるかをイメージしやすくなる。状況に応じたフレキシブルな対応のベースとなるものであり、共通認識を持つことで活動をスムーズに運ぶことができる。この新消火戦術については活動を共にする常備消防の渋川広域消防本部にも概要を周知徹底している。

吉岡町消防団による新消火戦術の訓練。酷暑の中での訓練実施となったため、熱中症対策として防火衣は使用せず、PPEも必要最小限に省略している。

 この新消火戦術の初めての訓練が、令和7年9月7日に群馬県消防学校で実施された。訓練は3つの想定に分けて実施。団本部運用訓練も兼ねており、実際に展開する活動隊と団本部が無線交信を行い、各隊の活動を把握しながら活動方針を打ち出し、具体的な指示を出す形で行われた。

 文字通りすべてが初体験となる1想定目の訓練では、参加団員全員に戸惑いが見られ、動きもぎこちない。フィードバックにて戦術作成にも協力した大渕浩好氏に技術面ではなく判断・決断・行動の大切さを説明されると、2想定目の訓練では参加団員それぞれが場面に応じて自ら判断した動きを見せるようになる。そして、3想定目の訓練で雰囲気が大きく変わる。団本部は分団個別に対する指示や全体への指示などを使い分け、活動部隊を指揮する。また、各分団は指揮本部が聞く前に報告を送ってくる。この流れができれば活動はスムーズに流れる。全体がどう流れており、自分たちが何をすればいいかが見えるようになるからだ。結果、より能動的な活動が繰り広げられた。

 訓練を終えて、吉岡町消防団の大島浩二団長は「参集人員数も限られるため、2名出動といったケースもありうる。こうした中でも迅速かつ的確に活動ができるように新消火戦術が作られ、実戦的火災対応訓練を実施した。初めての訓練で最初は戸惑いも見られたが、自分たちに出来ることが再確認できた。今後も訓練を重ね、習熟していきたい」と手ごたえを話した。また、訓練を見守った渋川広域消防署南分署の森田正樹分署長からは「2名出動など、少人数での出動も増えると思う。人数が少なければそれだけ事故発生のリスクも増える。今まで以上に安全管理に意識を向け、横の連携を高めることで、こうしたリスクを回避した活動を目指してもらいたい」と、今後に向けたアドバイスが送られた。
 吉岡町消防団の新消火戦術は、消防団員の主体性と達成感を引き出す取り組みとして大きな一歩となった。明確な指揮命令系統の確立と、状況に応じた柔軟な戦術の共有、そして実戦的訓練の積み重ねにより、地域を守る力のさらなる向上が期待できる。

 

  • 消防職員より少人数での火災現場対応技術の事前レクチャーを受ける。
  • 指導された吸管伸長技術の訓練。
  • 最優先放水活動のためのホース延長技術を学ぶ。
  • 訓練を前にマニュアルで新消火戦術のポイントをおさらいする。
  • 1想定目は5分団が先着。タンク水による即消活動を実施する。
  • 次着の4分団(水槽付ポンプ車)から送水を受けて放水を継続。
  • 2線2口の配備を完了。
  • 2想定目は3分団が先着。次着の2分団がタンク水を送る。
  • 第3着の4分団(水槽付ポンプ車)もタンク水を送る。
  • 4分団のタンク水は2分団を介して3分団へと送られる。
  • 3分団車両よりもう1線を延長し、2口目を配備。
  • 3想定目は最先着の1分団が防火水槽に水利部署する。
  • 後着隊は消火栓に水利部署し、1分団への中継体制を確立する。
  • 後着隊は直近水利部署車両に人員投入を行い、放水活動を実施。
  • 団本部運用訓練として、現場指揮本部の訓練も同時に行われた。

 


吉岡町役場 総務課 協働安全室
防災危機管理・消防団アドバイザー

大渕 浩好


 大渕氏は吉岡町を管轄する渋川広域消防本部において、消防吏員として長年勤務していた経験を持ち、当該地域の“消防”について広い視野で把握した人物。現在は防災危機管理・消防団アドバイザーとして吉岡町役場総務課協働安全室に勤務しており、今回の新戦術策定にも協力している。


「今回の訓練では、団本部が細かく指示を出さずとも、団員個々が考え、各分団が連携し、防火水槽の残量確認や放水判断、団本部への一報などを自主的に行えていた。これは実火災が発生しても十分対応可能な状態といえる。
特に、指示待ちとならず、使命感を持って主体的に動く姿勢が、回を重ねるごとに顕著となった。3回の訓練を通じて、迷いから気づき、実行へと意識が変化し、大きなレベルアップが見られた。団員同士が話し合いながら現場を動かす姿は、地域住民に安心感を与えるものである。
今後は今回の訓練を各分団で振り返り、今後の活動に活かしていきたい。今回得た経験は、吉岡町消防団が単独でも高い対応力を発揮できることを示す、非常に意義のあるものであった。」

 

 

訓練に参加した吉岡町消防団の皆さん。

 

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本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:吉岡町消防団(群馬県)

写真・文:木下慎次


初出:2026年1月 Rising 冬号 [vol.40] 掲載
(※この記事はRising掲載記事を補完したWeb完全版です)

 


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