埼玉県消防学校第39期救助科:震災救助訓練

 令和7年度に実施された埼玉県消防学校第39期救助科では、「地震災害における土砂災害の脅威」に備えるという視点から、土砂災害対応力の強化を目指したカリキュラムの見直しが図られた。同時に「震災救助」に関しても内容が大幅に強化された。

 今後発生が予想される首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模災害に備え、埼玉県消防学校では第39期救助科において、実践的な新カリキュラム「震災救助I・II」を導入。令和7年9月24日に埼玉県消防学校の屋外訓練場等で実施されたこのカリキュラムは、川越地区消防局高度救助隊の協力のもと、震災救助を想定した長時間活動訓練を実施。学生部隊が交代で活動を継続し、災害現場で求められる即応力と持続力を養った。

埼玉県消防学校第39期救助科の「震災救助I・II」では、川越地区消防局から高度救助隊及び同局所属のIRT登録隊員が教育支援隊として参加した。

 

震災救助I【部分訓練/都市型捜索救助訓練】

 今回「震災救助」として学ぶのは、都市型捜索救助に関する技術や基礎知識など。これは瓦礫の下に取り残された生存者に対する位置特定、閉鎖空間からの救出、 生存者の容体を安定化するための応急処置などを柱とする一連の救助活動を指す。

 午前の1時限~4時限を通して行われた「震災救助I」では、基礎的な震災対応技術と安全管理を中心に学習。まず初めに座学(講義)が行われ、阪神・淡路大震災や東日本大震災、熊本地震、能登半島地震といった過去の災害の解説や、都市型捜索救助に関して説明が行われた。

 その後、屋外訓練場に移動して訓練を実施。都市型捜索救助に関わる各種手技を学ぶ個別ブースが5ヶ所に用意され、学生らはそれをまわって部分訓練を受けた。

 

 

震災救助I:初期活動(アセスメント)

 Aブースでは初期活動(アセスメント)に関する部分訓練として、現場活動を円滑に、そして安全に進めるために必要な要素について、初期活動の流れを中心に学んだ。

 現場に入りまず行うのは情報収集。その情報をもとにゾーニングを行い、現場指揮所を設定して情報管理板等を活用しての情報集約や情報管理を行う。これを経て、隊員が進入を図り、アセスメント活動として環境測定や建物状況の確認、必要に応じてひび割れに対するマーキングなどを行う。そして救出すべき要救助者の位置を特定のために行われるのがベーシックサーチ(人的基本捜索)やテクニカルサーチ(資機材を活用した捜索)だ。

 これら現場到着から本格的な救助活動へ入るまでに行う活動について説明が行われた。

 

震災救助I:ムービング

 Bブースではムービングに関する部分訓練として、重量のある障害物を安全に移動させる技術について学んだ。

 本来であれば、重量物排除は重機やクレーンなどを活用するのが安全でスピーディーと言える。しかし、倒壊現場の真っただ中であれば重機などの接近進入は困難となる。こうした局面において、限られた資機材と徒手のみで排除を行うのがムービング技術だ。

 訓練ではコンクリート板を異動対象として、バールによりテコの原理を利用して回転運動をかけ徐々に動かす方法や、単管パイプを下に設定して転がすことで移動する方法などを学んだ。

  • ムービングに関する基礎知識の説明を受ける学生たち。
  • バールによりテコの原理を利用し、回転運動をかけ動かす方法の訓練。
  • 単管パイプをコンクリート板の下に設定して移動する訓練。

 

震災救助I:クリビング

 Cブースではクリビングに関する部分訓練として、重量のある障害物の持ち上げや安定させる技術について学んだ。

 瓦礫内部への進入や要救助者を救出するための開口部を得るために、重量のある障害物を持ち上げて、その下にクリブを差し込んで安定化を図る。この動作を繰り返すことで、目的の高さまで重量物を持ち上げる。この際、クリブ崩壊などによる重量物落下といったリスクが考えられるため、クリブの挿入も直接重量物の下に手を入れないようにするといった注意点も指導された。

 訓練では安全マットを巨大なコンクリート塊に見立て、マット型空気ジャッキでの持ち上げとクリブ挿入を繰り返すことで任意の高さまで持ち上げる手法を訓練した。

  • 重量物を想定した安全マットの下にマット型空気ジャッキを挿入して持ち上げを図る。
  • 持ち上げたらクリブやウェッジを挿入して確保する。
  • マット型空気ジャッキの下に敷板を設定して、さらに持ち上げを行う。

 

震災救助I:CSR

 Dブースでは瓦礫内部での活動に関する部分訓練として、CSRについて学んだ。

 CSRとは「Confined Space Rescue」の略で、狭隘空間からの救出技術を指す。ここでは活動に必要なPPEの説明や、要救助者の元へ到達するための手法である「トンネリング」、倒壊建物や土砂に埋もれた負傷者の一部に接触し観察する「パーシャルアクセス」、重量物などにより救出できない場合の「挟まれ解除」、要救助者を保温・保護するための「パッキング」といった一連の手技がレクチャーされた。

 訓練では狭隘空間内での活動に関する各手技等の説明が行われた後、要救助者の収容要領を3人1組で実施した。

  • 要救助者の保温や保護を目的としたパッキングの訓練。
  • スケッドストレッチャーによる救出の訓練。
  • ハーフスケッドストレッチャー使用時の足部側保持の方法についてアドバイスを受ける学生ら。

 

震災救助I:ショアリング

 Eブースでは倒壊建物の安定化に関する部分訓練として、救助用支柱器具や木材を活用してのショアリングについて学んだ。

 倒壊した建物内での活動は、進入隊員が二次倒壊に巻き込まれるリスクがある。このリスクの低減を図るため、建物を支えて補強するのがショアリングだ。現場ではまず、救助用支柱器具で応急対応を図り、続けて木材を加工して支柱として作り込むという方法で安定化を図る。

 今回の訓練では救助用支柱器具による応急対応、「ダブルTポストショア」の作成設定を実施した。

  • 救助用支柱器具での応急対応の訓練。
  • ダブルTポストショアの作成。各部材を釘止めしていく。
  • ソールプレートにポストを差し込み、両者の間にウェッジを打ち込んだ後、ハーフガセットとウェッジを釘止めする。

 

震災救助II【想定訓練】

 午後の5時限~8時限を通して行われた「震災救助II」では、午前中に学んだ知識や技術を活かし、複雑な救助活動や長時間部隊運用を想定した応用訓練を実施した。

 この訓練は地震発生時の長時間部隊運用を想定したもので、AサイトおよびBサイトの2か所で実施。各サイトにおいて5分隊、計30名の学生が同時に活動する。

 活動方針は、小隊長(学生)および指揮分隊を中心に決定し、統一した指揮のもとで活動を展開。教育支援隊(川越地区消防局)の1名が現地消防隊員として訓練に参加し、活動のサポートを行うが、基本的には学生らが考え、行動するというスタイルで活動が展開される。また、活動に必要な資機材は、各エリアに事前に配置されたものを使用し、その割振り、点検、使用後の管理については、小隊長が状況に応じて判断や決定を行う。

 長時間に及ぶ活動を想定するとともに、現場での活動引き継ぎといった動きも経験するため、想定訓練では途中にて活動サイト(A・B)の入れ替えが行われ、指揮分隊は情報管理を徹底し、引継ぎを行う部隊に対する正確な状況伝達を行った。

 

想定訓練:Aサイト

  • 活動部隊がAサイトに到着。現地消防隊員からの情報提供、関係者からの情報聴取により状況を把握する。
  • 得られた情報をもとに活動方針を決定し、各活動隊員に任務付与を行う。
  • ゾーニングを実施し、危険区域の明示を行う。
  • 隊員が進入を図り、アセスメント活動として環境測定等を実施。
  • クラックが生じた建物に対するショアリングを実施するため、当該箇所の採寸を行う。
  • 車両内で要救助者を発見するも、明らかな社会死状態。現場指揮所への報告と情報共有のため、デジカメで記録を行う。
  • 排除が必要な重量物を採寸し、おおよその重さを計算する。
  • ベーシックサーチ(人的基本捜索)を実施する。
  • ベーシックサーチで反応があったポイントにテクニカルサーチ(資機材を活用した捜索)を実施。画像探索機(いわゆるI型)を活用し、要救助者を発見する。
  • 電磁波探査装置によるテクニカルサーチも実施。さらにもう1名の要救助者を発見する。
  • 倒壊家屋に対しダブルTポストショアを設定して安定化を図る。
  • 進入の障害となる重量物をムービング技術により排除する。
  • 活動サイトの入れ替え。小隊長が引き継ぎ部隊対して状況伝達を行う。
  • 引き継ぎ部隊が活動を開始。内部に進入するため、障害となる瓦礫を除去する。
  • 瓦礫内部に進入した隊員が要救助者に接触。
  • 瓦礫内部で活動が進められる中、車両内で発見された要救助者の搬送が行われる。
  • 瓦礫内部の要救助者の挟まれを解除するため、スプレッダーが投入される。
  • 要救助者は鉄骨に足を挟まれた状態。スプレッダーにより鉄骨を持ち上げ、挟まれを解除する。
  • 要救助者のパッキングを実施。
  • 救出のためのハーフスケッドストレッチャーが投入される。
  • 要救助者の救出に成功。

想定訓練:Bサイト

  • 活動部隊がBサイトに到着。現地消防隊員からの情報提供、関係者からの情報聴取により状況を把握する。
  • 隊員が進入を図り、アセスメント活動として環境測定等を実施。
  • 重量のある障害物に対してクリビングによる安定化を図らねばその先に進入することができない。
  • クラックが生じた建物に対するショアリングを実施するため、当該箇所の確認と採寸を行う。
  • ベーシックサーチで反応があったポイントにテクニカルサーチ(資機材を活用した捜索)を実施。画像探索機(いわゆるII型)を活用し、要救助者を発見する。
  • 地中音響探知機によるテクニカルサーチも実施。さらにもう1名の要救助者を発見する。
  • 救助用支柱器具による応急対応を実施。
  • 重量物(安全マット)をマット型空気ジャッキで持ち上げ、クリブを挿入。進入や救出に必要な開口部を確保。
  • 活動サイトの入れ替え。小隊長が引き継ぎ部隊対して状況伝達を行う。
  • 引き継いだ部隊が活動を開始する。
  • ショアリングを実施した倒壊家屋から瓦礫内部へと進入を図る。
  • クリビングにより設定した開口部より瓦礫内部へと進入を図る。
  • 瓦礫内部に進入した隊員が要救助者に接触。
  • 倒壊家屋から進入した隊員がもう1名の要救助者に接触。
  • 要救助者の救出に成功。

想定訓練:地震警報器

 地震警報器は1器のみを使用し、Aサイト・Bサイトの中間に設置。警報器の設置および警報試験の実施はAサイトで活動する分隊が担当した。

  • 教育支援隊が地震警報器の取り扱い方法を説明する。
  • Aサイト活動分隊により地震警報器がセットされる。
  • 活動中に地震警報器が鳴動すると、両サイトで活動する隊員らが緊急退避を図る。

 

 


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本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:埼玉県消防学校

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

 


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