深入山の山焼き 警戒活動
広島県山県郡安芸太田町にある「深入山(しんにゅうざん)」は、西中国山地国定公園に指定された三段峡の東にそびえる標高1153mのなだらかな草原の山。山野草や山菜の宝庫であり、四季折々の草花を観ながら1時間ほどで登ることができ、山頂では西中国山地の山々が360度の大パノラマが広がる。
深入山は山全体が柔らかな草原に覆われた美しい山であり、約100haの草原を焼き払う山焼きは1749年から始まったといわれる。古くはワラビ山や肥草山として利用するために山焼きが行われ、生活様式が変わった現代では、その様子が壮観なことから芸北地方に春の到来を告げる一つの伝統行事として定着している。
山焼きは安芸太田町が実施し、地元の人々や安芸太田町消防団の全面支援により、厳重な安全管理のもとに実施されている。警戒活動を行う安芸太田町消防団では約100名の団員が朝8時頃に集結。6班に分かれ、警戒範囲を分担して配置につく。会場の麓付近にはキャンプ場やテニスコート、宿泊施設などに加え、「山村生活体験施設」としてかやぶき屋根の古民家などがある。こうした施設への延焼防止や火入れ禁止区域の警戒・消火活動には小型ポンプを投入。また、火入れをする区画にはジェットシューターを背負った消防団員が配置された。あわせて、関係者以外の立入りが禁止とされたサイクリングロードなどの警戒や、消防団車両による広報活動なども行われた。
スタート時刻の11時になると、関係者による火入れが始まる。山の斜面を覆う炎は圧巻だ。火入れをする区画の外周にはあらかじめ防火帯が設定されており、そのエリア内で計画的に山焼きは行われる。火は防火帯まで到達すると自然と小さくなり、待ち構える消防団員らがジェットシューターなどで完全に消火していく。
山焼きにより草地としての景観保全や希少な植物の保護が図られ、今では珍しくなった数多くの山野草を観察する事ができる深入山。地元消防団の支えにより、この大自然は今後も後世に受け継がれていく。
取材協力:安芸太田町消防団
写真:伊木則人
文:木下慎次
初出:2019年07月 Rising 夏号 [vol.14] 掲載