生存者を救うため国内外の災害現場で活躍!警視庁 警備犬

 警視庁の警察犬は大きく分けて2種類ある。一般的な警察犬は鑑識犬などと呼ばれ、刑事部に所属し、事件現場において優れた嗅覚で犯人を追跡し、捜査活動を支援する任務を担っている。もうひとつが今回紹介する「警備犬」だ。こちらは警備現場における、爆発物の捜索、凶悪犯の制圧、災害救助などの任務を担っており、警備部の所属となる。警視庁では昭和55年8月に警備警察活動を目的に、警視庁警備部警備第二課に担当者5名と警備犬4頭を配置し全国で初めて運用を開始している。
 警視庁の警備犬は国内で発生した大規模自然災害などへの派遣実績も多く、平成14年には国際緊急援助隊構成員(救助犬)として登録され、国際緊急援助隊救助チームとしての海外派遣実績も豊富だ。つまり、警視庁の警備犬は全国のレスキュアーが現場活動を共にする機会が最も多いレスキュードッグという側面がある。

 犬の聴覚は人間の5倍、嗅覚は4000倍以上と言われており、この能力を駆使して各種活動にあたる。同じ「人を探す」という活動でも、一般的な警察犬(鑑識犬)は特定の人(捜索対象者)の原臭を覚え、追いかけるという方法で探すのに対し、警備犬の場合は生存者が発する浮遊臭を感知して探す。つまり、原臭に頼らない不特定の人をターゲットとした捜索を可能としており、これにより倒壊家屋や土砂等の中に閉じこめられた生存者や、山歩きなどで行方不明になった人、さらには不審者の捜索などといった「地域捜索」活動を可能にしている。
「警備犬は災害救助以外にも凶悪犯の制圧といった任務も担うが、活動内容ごとに担当が分かれているのではなく、1頭ですべて対応できるよう訓練されている。この任務の切り替えに重要な役割を果たすのが『首輪』だ」(山川主任)
 災害救助の際は「鈴が付いた首輪」を着装することで犬は「人を探す任務」と知り、瓦磯や土砂等に埋もれた生存者を嗅覚により探す。また、この鈴には離れた位置にいるハンドラーから捜索している警備犬の居場所を知らせる役割もある。そして「革の首輪」を着装した際は「犯人制圧の任務」を与えられ、人に噛みつくことをハンドラーから許されたと理解するのだ。このように、警備犬は首輪によって任務を自らで把握し、救助モードや制圧モードに切り替えることができるのだ。

 警備犬は民間警察犬訓練所で生後6ヵ月から1歳程度の明るくて意欲のある犬を選定購入し、ゼロから警備犬になるよう訓練していく。
「犬種としてはシェパードとラブラドールレトリバーで、同様の能力を持つが性格が異なる。どの犬も同じ活動ができるよう訓練しているが、災害救助の場合、要救助者が安心できるようにラブラドールを投入するといった配慮も踏まえ、現場活動を行っている」(小松警部補)
 日々の訓練時間は1日3~4時間程度。地域捜索訓練や災害救助訓練、警戒訓練など各種現場に対応する技術を毎日繰り返して行う。また、どのような状況であってもハンドラーの指示に従えることを徹底的に身に着けるため、スワレ・マテ・フセが確実に行えるよう基本的な服従訓練も行う。そして、高い、狭い、揺れるといった環境は犬が苦手とする場所。こうした条件でも動じず活動出来るようにするための訓練も重ねている。
 当たり前の話だが、犬に信念や熱意はない。これらの反復訓練はもちろん、現場での活動の原動力になっているのは「よろこび」なのだという。見つけることが出来たらハンドラーが思い切り褒め、おもちゃで遊ぶ。ご褒美としての「よろこび」が犬たちの活力源になっているのだ。

 日ごろの訓練により訓練場で100%の実力が発揮できても、環境の異なる実際の現場であればそういうわけにもいかない。そこで実際の現場では、犬をリラックスさせるために環境馴致(じゅんち)としてボール遊びなどで犬の緊張をほぐし、いつも通りの空気を作ってから活動に入る。
「平成29年9月に国際緊急援助隊の救助チームとしてメキシコに派遣された際は、現地の標高が2000mあり、医療班も犬の健康を気にするほどの環境だった。過去に標高が2000mの雲取山(東京都・埼玉県・山梨県の境界にある山)で活動した実績はあったが、気候が異なる。犬が体調不良になっては意味がない。ストレス対策を含め、きめ細かい体調管理を行い、細心の注意を払った」(村上巡査部長)
 環境の違いとしては、大勢の活動隊員の存在も実災害における現場の特徴といえるだろう。その存在が影響せぬよう訓練を積み重ねているが、災害現場において犬は優れた聴覚と嗅覚により生存者を探している。ドックサーチ中に大きな声で確認呼称を行ったり、風上で待機したりすれば、犬の耳や鼻を少なからず惑わすことになってしまう。より効果的な活動につなげる意味でも、レスキュアーとして犬の特性に意識を向けるよう心掛けたほうがよさそうだ。

 現在、各警察本部においても災害救助に対応する警備犬の育成が徐々に始まってきたところだ。また、日本国内においては民間団体と消防本部が応援協定を結び、救助犬を現場投入できる体制構築が進められているところだ。
 そうした中で、警視庁警備犬は特殊救助隊や航空隊と連携し、広域緊急援助隊として全国に展開できる機動性を備えている。いままでも、これからも、大規模自然災害発生時に現場で共に活動する機会が高い頼もしい存在。それが警視庁警備犬なのだ。

 

  • 平成29年9月に国際緊急援助隊の救助チームとしてメキシコに派遣された際の活動状況。(写真:警視庁)
  • ハーネスにより犬を縛着して登梯し進入を図る。(写真:警視庁)
  • 西日本豪雨への派遣時に初めて活用されたカメラシステム。映像によりリアルタイムに状況の把握ができる。(写真:警視庁)
  • 物品持来の訓練。ハンドラーが投げた木製ダンベルを指示によって取りに行き、速やかにハンドラーの元まで持ってくる。
  • 災害救助訓練場。ガレ場などが用意されており捜索訓練などを行う。生存者のニオイを辿り、存在を確信すると吠えてハンドラーに知らせる。
  • 発見に対してハンドラーが褒め、要救助者役からはおもちゃをもらう。こうした喜びを原動力に犬は活動を行う。
  • 離れた位置に止まったハンドラーからの指示でポイントからポイントへの移動や障害物の突破などを行う遠隔動作訓練。
  • 傾斜のきつい坂のような障害も、跳躍力などを駆使して難なく踏破する。
  • 障害物踏破をイメージしたハードル越えの訓練。警備犬はハンドラーの視符(ハンドサイン)や声符(言葉による指示)を理解し、それに基づき動作を行う。
  • 塀の上という狭い足場での歩行訓練。
  • 器用にバランスを取り塀の上で体勢変換し、昇りよりも難しいはしご降りを行う。
  • 訓練を積み重ねることではしご昇降もこなせるようになる。
  • 宙づりのパレット上で障害物をくぐり抜ける、不安定足場に慣れるための訓練。こうして苦手を克服することであらゆる環境での活動に対応できるようになるのはもちろん、犬のみ進入可能な環境に投入された場合も確実に脱出できるようになる。

 

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:警視庁

写真・文:木下慎次


初出:2020年10月 Rising 秋号 [vol.19] 掲載

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