注目の消防車両 CLOSE-UP! 災害対応特殊救急自動車

 高知県の西部に位置する宿毛市、大月町、三原村の1市2町村を管轄する幡多西部消防組合消防本部では、1署2分署、職員61名体制で管内に暮らす約26,200名の住民の生命及び財産を守るべく活動している。緊急消防援助隊に登録する宿毛消防署に配備された救急2号車(平成22年度製作)が更新時期を迎えたことから、令和2年度に災害対応特殊救急自動車を製作した。

 新車両は緊急消防援助隊登録車両として全国で活動することを考慮し、消防救急デジタル無線に加え署活系無線(150Hz帯)と防災総合派(460Hz帯)を搭載。指導救命士や現場隊員の意見をもとに最新の装備等が採用され、日常の運用や緊急消防援助隊としての広域応援出場において高次元の安全性や活動性を追求しているのが特徴と言える。

 今回採用されたのはトヨタのハイメディック。令和2年6月に一部改良が行われ、安全機能の拡充が図られた。日常的に多くの緊急走行を強いられる救急車。車両の更新にあたり、赤色警光灯による交差点進入時の注意喚起能力向上が図れないかと模索する中、ちょうど良いタイミングでトヨタから新しい架装オプションのアナウンスがあった。令和2年度に新たに登場した「アクティビーコン」は活動状況に応じて警光灯の発光パターンが3つのモード変化するというもの。通常の「ノーマルモード」に加え、交差点進入時などに内部のLEDを大きく円を描くように強力に発光させることで視認性を向上させる「ハイパーモード」、逆に発光灯数を少なくしつつゆっくりとした優しい光り方で夜間の住宅地での活動時などに配慮した「ソフトモード」を搭載。これらの切り替えは活動状況に応じて自動的に変化するよう設計されており、ウー音や交差点進入・右左折の合成音声スイッチ、またパーキングブレーキに連動して切り替わる。追加の動作を必要とせずに安全性の向上や地域住民への配慮に効果が期待できることから、採用を決めた。

 警告機能の強化としてはバックドアのガラス部分に搭載した電光掲示板「ブラインド型車両搭載情報板」も注目ポイントだ。石川県の金沢市消防局をはじめ、日産パラメディックへの搭載が進むこの装置だが、トヨタハイメディックへの搭載はまだ少数派。高知県では同車が初採用となる。採用の決定打となったのは、救急現場の多種多様な環境において、傷病者や隊員を守り支える高い効果が期待できたからだ。
 まず、救急車が止まっているという日常的な場面に対し、「何をしているのか?」「なぜ早く出発しないのか?」といった地域住民の声はよく耳にするところ。しかし、傷病者への対応や医療機関への連絡を実施している中で、この声に逐一対応できないという現実がある。そこで、情報板に活動状況を流すことで少しでも住民の不安が減るのではないかと考えた。
 また、積雪寒冷地のおけるホワイトアウトとまではいかないが、高知県では梅雨時期になると霧が多く発生し、視界不良となる場合が多々ある。そうした中で道路上に部署して活動する際も、この情報板で注意喚起を強化することができれば、事故防止を図るだけでなく隊員が活動に集中できるというメリットがある。
 さらに、走行時の安全確保にも効果が期待できる。近年では「あおり運転」が社会的な問題として認知されているが、救急車の場合、安静搬送中でスピードが出せない場面で後続車に車間距離を詰められるというケースは以前からよく起こっていた。機関員の負担が増し安全な救急搬送に支障を招くこうした場面を回避する工夫として、同車では「安静搬送中」「車間とれ」などのメッセージが表示できる仕様としている。

 灯火類の強化というアプローチ以外にも、おなじみの赤帯ではなく「青帯」とすることで救急車を注目させるという斬新な手法も採用。全体的にシンプルなデザインながら人々が思い描く姿と異なる「青帯」を用いることで見る者の深層心理に働きかけ、更に救急車の存在を示せる様に工夫がなされている。
 今後ますます高齢化が進み、救急件数も増加していくことが予想される。あわせて、大規模自然災害も頻発しており、緊急消防援助隊として出場する可能性も増している。こうした現状と向き合い、いま出来うる工夫を最大限に盛り込んで作り上げた新救急車。人々の生命及び財産を守り抜くという強い使命感を感じさせる一台に仕上げられている。

 

令和2年6月の一部改良により安全機能の拡充が図られたトヨタのハイメディックをベースに製作。緊急消防援助隊登録車両として消防救急デジタル無線に加え、署活系無線(150Hz帯)、防災総合派(460Hz帯)を搭載している。

 

アクティビーコンによる発光警示能力向上と反射材の活用で視認性向上を図る。

 

後部窓にアイテックス製のブラインド型車両搭載情報板を装備。車内にLEDの光が入らないよう、背面を黒色にした救急車両用(車内側遮光仕様)を採用している。

 

情報板の使用状況。警光灯に加えメッセージによる注意喚起を図ることができ、「救急活動中」や「処置中」といった現場広報などが容易に行える。

 

情報板の車内操作端末。ボタン操作で表示内容の切り替えが可能だ。

 

患者室の状況。ストレッチャーはファーノ製のモンディアルを採用している。

 

各種機器が整然と並ぶ。

 

手洗い装置の代わりに開口の広い扉付収納庫を装備(写真左)。右後収納庫(大)は上段収納庫扉を開くと処置トレイになるタイプを採用(写真右)。

 

 

 

SPEC DATA
全長 5,600mm
全幅 1,895mm
全高 2,510mm
患者室長 3,560mm
患者室幅 1,730mm
室内高 1,850mm
ホイルベース 3,110mm
総排気量 2693cc
最大出力〈ネット〉 118kw(160ps)/5,200r.p.m
最大トルク〈ネット〉 243N・m(24.8kgf・m)/4,000r.p.m
駆動方式 4×4
配備年月日 令和3年2月4日
艤装メーカー トヨタカスタマイジング&ディベロップメント
TOYOTA SAFETY SENSE
・自動(被害軽減)ブレーキ
プリクラッシュセーフティ
(歩行者[昼]検知機能付衝突回避支援タイプ/ミリ波レーダー+単眼カメラ方式)
・レーンディパーチャーアラート
・オートマチックハイビーム
・デジタルインナーミラー
・パノラミックビューモニター
・VSC & TRC
・EBD(電子制御力配分制御)付ABS +ブレーキアシスト 
ブラインド型車両搭載情報板
表示部 [スーパーワイドサイズ]
外形寸法  縦402×横1115× 厚み3.5㎜ 
重量  約1.5kg 
 使用LED 5㎜角3素子LED  赤1色
表示文字数  全角3文字 
表示寸法 縦350×横1032㎜
 ドット数  15×48dot  
 チャンネル数 最大 256チャンネル  
 表示モード 固定、点滅、切替、スクロール  
表示輝度 自動切替 
 電源  DC12V 5A未満 
コントローラー [1DIN] 
外形寸法 縦50×横170奥行40㎜  
重量 230g
通信  有線式 
連動機能 有り 入力信号最大5系統 
輝度設定ボタン 減光ボタン有り
 ワンタッチボタン 10個 
 電源 DC12V 0.5A未満 
表示電源 制御部
外形寸法 縦218×横105× 奥行60㎜  
重量 930g
通信 有線式
電源 DC12V 5A未満(表示部・コントローラーと共用)

 

 


 

お 知 ら せ
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

 


 

写真・情報提供:幡多西部消防組合消防本部

文:木下慎次


初出:2021年4月 Rising 春号 [vol.21] 掲載
(※この記事はRising掲載記事を補完したWeb完全版です)

 


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