注目の消防車両 CLOSE-UP! 救助工作車 III型
■バス型の弱点を克服!
福岡県・粕屋南部消防組合消防本部では、南部消防署に配置された救助工作車の更新に際し、ボディー形状を刷新してバス型を採用した。これは日常運用時における水難救助・ガス漏洩事故等での出動途上の装備準備を考慮するとともに、緊急消防援助隊出動時の長時間乗車における隊員疲労の軽減と増強資機材の積載を意識したため。救助工作車はシャーシ条件がないため、積載庫部分と同じ車幅を確保できるワイドキャビントラックシャーシをベースとしている。
同車最大の特徴が、バス型の弱点ともいえる後部座席の床面の高さだ。救助工作車では発電機、油圧ウインチ、油圧クレーンを作動させるためにセンターPTOとサイドPTOを併用するのが一般的。しかし、センターPTOから動力を得ると、後部座席床面に突起が生じてしまう。そこで、同車はサイドPTOのみで各装備を駆動させることを条件として製作。その結果、後部座席床面を可能な限り低くすることができ、天井高を1880mm確保。近年製作されている同等車両の中でも最大限に後部車内空間を確保している。
同車は配備直後に発生した熊本地震へ緊急消防援助隊として出動している。

キャブバス型の新しいスタイルで第3のバス型とも呼ばれる仕様。積載庫と同じサブフレーム上に隊員室が作りこまれている。

左側面には隊員乗降用の折り戸を備える。左右側面はアオリを大きく立ち上げることですっきりとした印象を与えている。
右側積載庫の状況

引き出し式ロープラックは前面にパンチングパネルを使用しカラビナ等を収納できる。下部を箱型とすることで小物収納も可能とした(写真1)/収納が難しい車両移動器具は専用スペースを設けて整然と収納(写真2)/チェーンレスステップ。上面もフルフラットになる(写真3)/スカートボックスには可搬式ウインチなどを収納(写真4)/積載庫とクレーンの間には長尺アイテムを収めるボックスを設置(写真5)/アウトリガー横のボックスにはクレーンのリモコンなどを収納(写真6)
左側積載庫の状況

後部ドアは外開きとし、ステップも1段目が車外側へ展開する仕様としたため、車内の階段スペースを最小限にすることができた(写真1)/大型油圧救助器具はバッテリー駆動式を採用(写真2)/同車には重量級の資機材も搭載されている。現場携行を容易にするため、折りたたみ式台車が用意されている(写真3~4)/電気駆動式資機材に対応すべく20m電源コードリールを装備している(写真5)/左側はアウトリガー横を送受話器ボックスとしている(写真6)
フロント周りの状況

フロントウインチのフックは常時接続しておける(写真1)/前後バンパー内の隙間を利用し、シャックル等の収納庫を設置している(写真2)
リア周りの状況

各種照明などを備えた後部の状況(写真1)/大型照明装置を必要としない場面で使用する補助照明装置として、佐藤工業所製のSP-Q15(LED式)を左右側面と後部(写真)に直付けしている(写真2)/後部ウインチは前部ウインチ(油圧)とは別系統の電動ウインチを選択。崖下等での転落車両確保や隊員の降下にも対応できるようワイヤーを下方に展開できるようにした(写真3)/後部バンパーにも小物収納庫を設けシャックル等の収納を行っている(写真4)
車内の状況

ワイドキャブの採用により隊長席横も広い。センターコンソールを小型化することで隊長席から後部へ容易に移動することができる(写真1)/前部座席の背後には積載棚を装備(写真2)/運転席後方に位置する3座席(中央は補助席)(写真3)/後部は計4座席が用意されており、車内空間も最大限に確保。緊急消防援助隊出動時には高度救助資機材を積載することができる(写真4)
■ここがポイント!後部席床面の高さ
粕屋南部消防組合消防本部は緊急消防援助隊の救助小隊に登録しており、東日本大震災にも出動している。想定をはるかに超えた地域への出動も将来的に発生する可能性が否めぬ現実から、広域応援における隊員の負担軽減、あわせて、ガス漏えいや水難救助作業の出動途上での準備等を考慮し、バス型救助工作車の導入が検討された。
同本部の掲げた車両の条件は
- 管内の道路状況等を考慮し5.5トンシャーシとする。
- バス型の特性を生かすため後部席(4名席)を広くし、さらに資機材庫とつながっていること。
- 緊援隊設備整備費補助を受けるために、III型の条件を満たすこと。
- 広域応援にも対応できるような資機材庫を備える。
- スペアタイヤを無理なく積載できる。
といった内容。
このうち、同車の最大の特徴となっているのが後部座席の床面の高さだ。構造上、シャーシフレームからはみ出すカタチで機器等を搭載すれば、後部座席の床面が高くなってしまう。つまり、その上に設ける隊員室の天井高を確保するには車高が高くなるわけだ。現実問題として、これでは桁下進入が困難になるといった運用上の問題が出る。この問題を見事に解消しているのが同車の仕様だ。後部座席床面を可能な限り低くするため、センターPTOを採用せず、サイドPTOのみで油圧ポンプや発電機を駆動させることにしたのだ。その結果、日野自動車製5.5トン低床四駆シャーシ(ワイドシングルキャブ)を使用しながら、クレーン、前後ウインチ、照明装置(発電機)の搭載を実現し、発電機を積載しながら天井高1880mmを確保することができた。

センターPTOから動力を得る発電機を搭載している例。発電機がフレームより高い位置にくるため、GLから床面までの高さは1,210mm程度となる。

同車ではサイドPTO(油圧ポンプ)からの発電機を接続させたため、機器がフレーム内に収まる設計。

同車はGLから床面までの高さは1,100mm程度に抑えられている。
車上の状況

スペアタイヤ(前後用2本)はルーフステージ部分に積載可能(写真1)/スペアタイヤ積載で見えなくなる対空表示。そこでカバーにも対空表示が施されている(写真2)/三連はしご下やクレーンブーム下にも可能な限り収納庫を設置。使用頻度が低いものを積載してる(写真3)/車上への動線となる梯子型ステップは使用時に引き出す方式(写真4)
クレーンの状況

クレーンの使用状況(写真1)/クレーンアウトリガー設定時における敷板の位置微調整を不要とするため、敷板にマグネットを付けた(写真2)/クレーンは4段式を採用(写真3)

中部消防署に配置された救助工作車II型とともに管内を守る(写真1)/先代の救助工作車III型(写真2)/この車両を運用する南部消防署特別救助隊の皆さん(写真3)
SPEC DATA | |
車名 | 日野 |
通称名 | レンジャー |
シャーシ型式 | SDG-GX7JGA |
全長 | 8290mm |
全幅 | 2380mm |
全高 | 3300mm |
ホイルベース | 4250mm |
最小回転半径 | 7.1m |
車両総重量 | 11790kg |
乗車定員 | 6名 |
原動機型式 | J-07E |
総排気量 | 6400cc |
駆動方式 | 4×4 |
配備年月日 | 平成28年3月28日 |
契約先 | キンパイ商事福岡支店 |
艤装メーカー | テイセン |
ウインチ(前) | ロッツラー製 HZ051/2-58F |
ウインチ(後) | ラムゼイ製 RE12000R |
クレーン(能力) | ユニック製 UR-U304GRSKK (2.93t) |
照明装置 | 湘南工作所製SLD-4000UCL2-D |
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本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。 |
取材協力(写真・情報提供):粕屋南部消防組合消防本部[福岡県]
文:Rising編集部