注目の消防車両 CLOSE-UP! 水槽付きポンプ自動車
東京都では、エネルギーといった基本的社会インフラをITを駆使して効率よく利用することで、環境負荷が少なくて人々が住みやすい都市をめざす「スマートシティ」の実現に向けた取り組みを進めている。その一環として、東京消防庁では電動モータ駆動で放水可能な消防ポンプ補助装置「スマートポンプ機能」を装備した水槽付きポンプ自動車3台を製作し、玉川消防署、石神井消防署、東村山消防署に配置した。
スマートポンプ機能はポンプの駆動をハイブリット化するシステム。リチウムイオンバッテリによる電動モータ駆動での放水を可能にすることで、二酸化炭素排出量を削減し環境対策に寄与するとともに、電動モータの静音性により駆動音を抑制することが可能となっている。操作についてはポンプ操作盤に設けられている液晶パネルと電子スロットルで行う。放水に際して特別な操作の必要はなく、放水量(ポンプ回転数)に応じて自動でエンジン駆動と電動モータ駆動が切り替わる仕様であり、エンジン駆動時はリチウムイオンバッテリに回生充電されるようになっている。エンジンを停止した状態でモータによりポンプを駆動させた場合、ポンプ圧力0.3MPaで毎分約300Lの放水が可能であり、連続で約1時間稼働させることができる。
同車は従来の水槽付きポンプ自動車に消防ポンプ補助装置を付加した車両という位置づけであり、外観や基本的な構造などは前年度製作の従来型車両と大きな差異はない。ハイブリット化もポンプ駆動に特化したものであり、走行に関してはエンジンからの動力のみで行われる。ポンプ駆動についても放水量が必要な際の高回転はエンジンからの動力で対応し、低回転のみモータが補助を行う仕組みだ。
このスマートポンプ機能により、従来型車両(エンジン駆動のみ)に比べて1時間当たり約12キログラムの二酸化炭素を削減でき、騒音も80デシベル以下に抑制することができる。
一般車両においてハイブリッド車が普及する昨今、消防自動車のハイブリッド化と聞いてもインパクトを感じないかもしれない。しかし、ポンプ車などの消火系車両を電動化、あるいはハイブリッド化することは難易度が極めて高いといわれており、世界的に開発があまり進んでいないのが現実だ。
消火系車両は火災現場において静止している際も、エンジンをフル回転させてポンプを駆動させている。これを完全に電動化、あるいはハイブリッド化しようとすれば、システムが大型かつ複雑化してしまい、バッテリも相応の容量を確保せねばならなくなる。そうなれば、積載資機材や積載水を大幅に減らす必要が生じるわけで、現場活動に影響を与えかない。さらに、製作費用も莫大となり「小型ポンプ車を1台作るのにはしご車と同じ額がかかる」という状態になる。これらがネックとなり、世界的に走行+ポンプ駆動の完全電動化・完全ハイブリッド化は進んでいないのが現実なのだ。
そうした中、東京消防庁が「スマートポンプ機能」を装備した水槽付きポンプ自動車の製作に踏み切ったのは、大きな挑戦と言えるのである。同車は「環境等への配慮」という点にテーマを絞っているのがポイント。実現困難な完全ハイブリッド化等ではなく「ポンプ低回転域でのモータ補助」という現実味のある方式とすることで、従来型から大きく仕様変更をすることなく「スマートポンプ機能」をプラスすることに成功しているわけだ。
消火系車両を電動化・ハイブリッド化することで得られる消防活動に直結する効果は「放水能力が向上する」といったものではなく、「静音化による活動性・安全性の向上」と考えられており、諸外国でもそうした視点で開発が進められている。同車の場合も、行政機関の責務として、環境等への配慮という目的を果たすというテーマはもちろん、活動隊員の安全確保への効果が期待できる。消防車に搭載されたエンジンも静音性が向上したとはいえ、それでも大きな駆動音が発生する。この音が隊員間の意思疎通の障害となったり、環境音をかき消すことで危険要因の発見が遅れたりすることがある。静音性が高い電動モータに置き換えることができれば、こうした活動障害を排除することが可能なわけだ。
同車の誕生により、日本の消防車においてもハイブリッド化についての道が拓かれたといえる。環境や地域住民、そして活動隊員にも優しいこの次世代型消防車は、消防自動車のさらなる進化に向けた貴重な一歩といえる存在なのだ。
液晶操作パネル
リチウムイオンバッテリの充電
SPEC DATA | |
シャシ関係 | |
全長 | 約6.58m |
全幅 | 約2.31m |
全高 | 約2.76m |
ホイルベース | 3.26m |
最小回転半径 | 5.3m |
車両総重量 | 約10,825kg |
乗車定員 | 7名 |
エンジン関係 | |
種類 | 水冷直列4気筒ディーゼル |
総排気量 | 5.193L |
最高出力 | 154kW-2,400r/min |
最大トルク | 706N・m-1,600r/min |
トランスミッション | 電子制御式自動6段変速機(手動モード付) |
ポンプ関係 | |
水ポンプ | A-2級 |
水槽容量 | 1700L |
消防ポンプ補助装置 | スマートポンプ機能搭載 |
お 知 ら せ |
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。 また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。 |
取材協力:東京消防庁
写真・文:木下慎次
初出:web限定記事