第一回泉州南消防組合警防技術大会

 消火隊として活動する新人隊員と中堅隊員の基本技術向上やチームワークのさらなる強化を目指すべく、大阪府の泉州南広域消防本部では新たな取り組みとして「第1回泉州南消防組合警防技術大会」を開催した。この大会は令和2年4月採用の隊員が配置されている本部・署所を対象とし、新人隊員1名と先輩隊員2名での3名1チームを編成。ポンプ車(スモールタンク車)を運用する消火隊として建物火災を想定した消火技術等を競うものだ。大阪府と言えば、大阪府下各消防本部から1隊4名が出場し、消火隊に必要とされる基本技術の習得・体得を主眼に安全確実性を競い合う「大阪府下警防技術指導会」がおなじみだが、泉州南消防組合警防技術大会はこれとは別建ての、本部独自の隊員教育プログラムとなる。

令和2年4月採用の新人が配置された本部・署所の7所属から9チーム27名の若き消防人たちが集結し、訓練成果を披露した。

 チーム編成は、新人隊員が一番員を担当し、隊長は消防士長以上の階級にある者、機関員は使用車両が運転できる免許を有する者(機関員の資格等は求めない)が担当。つまり、3名とも通常勤務とは異なるポジションを経験するというかたちになる。訓練は消火隊に必要とされる基本技術として、車両運行の事故防止、ホース延長、的確な注水、自己の安全管理といったスキルの習得や、隊全体の活動に対する安全確実性に着眼して行うことがテーマ。大会事務局である警防部警備課からは基本想定と共に、迅速性のみにとらわれることなく基本技術の習得・体得を主眼に取り組むことや、使用する車両や装備も訓練のために手を加えることを禁止するなど、大会のための訓練とならぬよう事前に伝達が行われた。

 大会は令和3年3月8日に阪南消防署南西分署にて開催。この日に向けて訓練を積み重ねてきた9チーム27名の若き消防人たちが一堂に会した。訓練想定は「鉄骨コンクリート3階建て建物の2階から出火し、3階へ延焼中。1階に要救助者あり。先着隊は建物背面の延焼阻止中。後着隊として、ポンプ相掛りで、建物正面で活動する」というもの。相掛りとは先着隊のポンプ車等を活用し、同車から一線延長を行い消火活動を行う手法だ。この想定をもとに、参加チームは後着隊として活動を展開、消火活動と並行して救出活動を実施する。

自隊の車両を所定の位置に部署させ、ホースカーや資機材などを準備。安全確実性を意識し、機敏で確実な動作で化学車のもとへ向けて移動する。

 訓練は車両脇に整列待機した状態からスタート。周囲の確認を行い、乗車して発進すると訓練本部より無線にて「直近化学車の第3放口からホースを延長。建物北側の消火、要救助者の屋内検索にあたれ」との命令が入る。所定の位置に至ると下車し、ホースカーや資機材などを準備。使用資機材については本部が支給するホースバッグとクアドラフォグノズル、三連はしごは8・7mのタイプで統一が図られている。

 ホースカーを曳行し、相掛かりを行う化学車のもとへ到着。ここまでの動作も審査されているが、時間計測はまだ行われていない。隊長の「操作はじめ」の号令をもとに現場活動が本格的に始まり、全標的が落下・転倒するまでの時間が計測される。隊長は号令を発すると直ちに建物北側へ走り、現場初期情報の積極的収集と訓練本部に即報を入れる。機関員がホースカーから延びるホースを化学車に接続すると、一番員がホースカーを曳き、2名で建物北側を目指す。ホースカーで延長した65㎜ホースを必要な長さで切り離すと双口媒介を接続し、ホースバックに収めた40㎜ホースを延長。クアドラフォグノズルを接続して放水体系を整えると、北側での延焼阻止として火点標的2基に対する放水を行う。

ノズルを手に、火点標的への放水を始める新人隊員。

 続けて、北側1階の玄関より屋内進入を図り検索を開始。意識のない要救助者(ダミー)を発見し、直ちに救出する。この段階で、建物2階部分は先着隊による鎮圧が完了。後着隊である訓練実施小隊へ3階への転戦が下命される。これを受け、三連はしごを設定し、3階北側開口部より屋内進入を実施。居室部に用意された標的(ポリタンク2個)に放水を行い、落下・転倒したところで訓練終了となる。

 この大会は部分的な操法技術ではなく、ホースの延長や放水、検索救助、上階への転戦、屋内での活動というように、消火隊が火災現場で行う一連の活動を総合的に試す内容となっており、大会に向けた訓練が現場対応技術の習熟に直結するというメリットがある。新人にとっては「リアルな想定訓練」を通して基本スキルを磨くよい機会となり、共に参加する先輩隊員や指導に当たるベテラン隊員にとっても「新人を指導する」という視点により基本を見つめ直すよい機会となったようだ。

 泉州南広域消防本部では今後も大会を継続し、消防職員全体のスキルアップにつなげていく考えだ。

 

  • 現着すると直ちにホースカーなどの準備を行う。空気ボンベに赤テープの目印があるのが新人隊員。
  • 相掛りとして化学車にホースを接続しホース延長を行う。
  • ホースカーを曳行し、活動を行う建物北側へ向かう。
  • 狭隘路を想定したコーンエリアでは一旦停止して周囲の状況を確認。
  • 延焼阻止として火点標的2基に対して放水を実施する。
  • ドアを開放し下層から内部の状況を確認する隊長。その直後で警戒にあたる新人隊員。
  • 内部進入を前に、隊長から活動方針が伝えられる。
  • 内部進入開始。階段にて要救助者を発見し、救出を図る。
  • 救出した要救助者をストレッチャーに収容。
  • ノズルを抱え、3階への進入を図る。
  • 面体を着装した後、出火室へ向かい移動を行う。
  • 建物内の活動は見学者にも見えるよう映像中継された。
  • 廊下を進んだ先にある居室に到着。状況を確認し標的に向かい放水を行って素早く倒す。

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 


 

取材協力:泉州南広域消防本部

写真・文:木下慎次


初出:2021年7月 Rising 夏号 [vol.22] 掲載

 


pagetop