注目の消防車両 CLOSE-UP! 支援車 III 型
福岡県の粕屋南部消防組合消防本部では2003年にマイクロバスベースの支援車を導入。人員輸送車や資機材搬送車として管内で発生した各種災害への対応はもちろん、2011年3月に発生した「東日本大震災」に救助小隊・救急小隊の帯同隊として出動したことをきっかけに、2012年4月に緊急消防援助隊後方支援小隊として登録。以降も熊本地震、多発する豪雨災害といった数多くの大規模災害の現場において後方支援小隊として隊員の活動を支えてきた。
実戦経験を重ねるうちに、マイクロバスベースであるがゆえの課題が浮き彫りとなってきた。応援出動の際などは後方支援資機材を積み重ねて詰め込む状態となり、積載できても固定できず、積載物の所在も不明となりがちだった。また、積み下ろしも人手と時間を要し、緊急消防援助隊として出動した際は宿営地設営に遅れが生じてしまうリスクがあった。2020年に発生した「令和2年7月豪雨」に緊急消防援助隊後方支援小隊として出動した際にこうした課題を痛感。また、大雨等による水害の発生頻度の高まりをふまえれば、今後も広域応援出動が続くことが予想された。そこで、後方支援体制の充実強化を目指すべく、支援車の更新を2年前倒しする形で新支援車を製作することが決まった。
積載物の迅速な積み下ろしや積載時の安全性を考慮すれば、支援車I型などで採用されるカゴ台車を活用する方式が最適。また、重量物対応を考えればパワーゲートも必要だ。こうした搬送能力の向上を図りつつ、人員輸送能力も備えることを考えた結果、5.5tワイドキャブ仕様トラックシャーシをベースに製作するという答えにたどりついた。さらに、マイクロバス以上のキャパが確保できることから、人員や物資などを運ぶだけでなく、災害現場における休憩スペースの確保、活動隊員に対する給水・給食支援といった機能も盛り込むことにした。
各地で導入されるトラックシャーシベースのIII型を多く製作しているのが坪井特殊車体株式会社だ。同社は静岡県焼津市にある車両の設計製作メーカーで、ダカールラリーのトラック部門に参戦した「HINO TEAM SUGAWARA」の日野レンジャーのボディー製作を担当したことでも知られる。剛性の確保と軽量化、空力にも配慮し設計する技術力に定評があり、各種消防車両も製作している。粕屋南部消防組合消防本部の新支援車も契約先は株式会社モリタ福岡支店で、製作は坪井特殊車体株式会社が担当。これまで同社が製作してきたIII型のノウハウを注ぎ込みつつ、粕屋南部消防組合消防本部のアイデアをプラスすることで、他にない一台に仕上げられている。
新支援車は隊員室と荷室に区画され、合計20名の座席が確保されている。隊員室は長時間活動を要する現場での隊員休憩スペースとしても活用可能。簡易キッチンとしてIHコンロ卓なども備えているため、給水・給食支援なども行える。荷室は座席をたたむことで資機材を収容したカゴ台車4台以上を積載することができ、パワーゲートにより容易かつ迅速に積み下ろしを行うことができる。ここまではトラックシャーシベースとすることで得られる一般的な性能だ。粕屋南部消防組合消防本部の車両は、現場運用を考慮し、さらに一歩踏み込んだ作り込みを行っている。
酷暑時に休息スペースとして車両を活用する場合、エアコンにより車内温度を下げ、活動隊員の熱中症対策を図る必要がある。しかし、5.5t級のコンパクトなシャーシを使用しているため床下スペースに限りがあり、隊員室用エアコン1基分の室外機しか搭載ができない。そこで同車ではスポットクーラーを活用。荷室を休息スペースとして使用する際にはスポットクーラーを設定できる構造としている。
また、災害現場におけるトイレ問題にも対応。荷室の奥に換気扇を設けた多目的スペースを用意し、ここにポータブルトイレを設定できる。こうした区画を設ければ、その分、積載キャパや座席数に影響が生じてしまう。だが、活動隊員に対するトイレ支援、中でも女性隊員へ配慮した機能はこれからの活動を支える支援車には必須と判断。補助席を用意することで座席数の問題を、専用カゴ台車を用意することで積載キャパの問題を解消し、簡易的ではあるが支援車I型に匹敵するサポート能力を実現することに成功した。
新支援車は「支援1」として南部消防署に配置され、旧支援車は中部消防署へ配置転換され「支援2」として運用が継続される。緊急消防援助隊としての後方支援活動はもちろん、人員輸送と資機材搬送、災害現場における休息スペースの確保など、日常的に幅広く活用できる能力が凝縮されたこの車両は、過酷な活動が強いられる現場におけるリスクマネジメントの強化を実現する頼もしい存在と言えるだろう。
前面・後面
左側面
右側面
車上
車体裏
車内(隊員室)
車内(荷室)
SPEC DATA | |
車名 | 日野 |
通称名 | レンジャー |
シャーシ型式 | 2KG-GX2ABA |
全長 | 8,420mm |
全幅 | 2,490mm |
全高 | 3,280mm |
ホイルベース | 4,580mm |
車両重量 | 8,450kg |
乗車定員 | 20名 |
原動機型式 | A05C |
総排気量 | 5.12L |
駆動方式 | 4WD |
特殊艤装 | パワーゲート、カゴ車積載 |
設備等 | 発電機(車載発電機、移動式発電機) 簡易トイレ積載(ラップポン) 簡易キッチン(清水・汚水タンク、IHコンロ、電子レンジ) 情報収集テレビ(32インチ) |
配備年月日 | 令和3年12月1日 |
艤装メーカー | 坪井特殊車体株式会社 |
契約先 | 株式会社モリタ 福岡支店 |
お 知 ら せ |
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。 また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。 |
写真・情報提供:粕屋南部消防組合消防本部(特記以外)
文:木下慎次
初出:2022年1月 Rising 冬号 [vol.24] 掲載
(※この記事はRising掲載記事を補完したWeb完全版です)