RS1Heavy Weight : Lift & Move BASIC 田川コース
重量物の持ち上げ及び移動方法についての基本的な知識並びに技術を座学・実技により習得する1日コースの勉強会が、レスキュー3ジャパン公認インストラクターの早川弘之氏を招いて福岡県田川市において開催された。USARヘビーウェイトリフト&ムーブに関する勉強会は九州北部では初の開催となる。当初の予定では2023年7月1日・2日の2日間、それぞれ同じ内容が実施される予定であったが、7月1日は豪雨の影響で中止に。そのため、1日に参加予定だった者もあわせ、7月2日に約20名が参加。午前9時より田川青少年文化ホールにおいて座学が行われ、午後は市内にある株式会社鷹羽建設の敷地に会場を移して実技が行われた。
大規模自然災害などの現場において倒壊した構造物に救助チームが直面し、要救助者のもとへ到達するため、あるいは救出するために重量物を持ち上げたり、移動させたりする作業が必要となる。この時、重機などを投入できる状況の方が稀であり、手作業により重量物へ対処せねばならないという現実がある。大規模自然災害が続発する昨今、こうした場面に直面する可能性は格段に増しており、ヘビーウェイトリフト&ムーブへの注目度も高まっているといえる。
こうした現実を背景に、この勉強会は重量物の持ち上げと移動についての入門編(基礎編)として実施されたもので、重量物を持ち上げたり、転がしたり、移動させたりする際の適切なサイズアップ、テクニック、安全上の考慮事項などの習得を目指している。
重量物を持ち上げて安定させるために用いるのがクリブ(角材)とウェッジ(クサビ)だ。今回の勉強会では約9cm角の4×4材を用いたクリビングに挑戦。まずは基本となる「ボックス」(2×2や3×3)、地盤が軟弱な場合等に用いる「ソリッド」、4点支持出来る奥行きがある場合に用いる「パラレル」といったクリブの組み方を学ぶ。ここで注意が必要なのが挟まれ防止の徹底だ。重量物の落下を考慮し、クリブなどを持つ際は上下ではなく左右から指で挟むように持ち、重量物の下に差し込む際は手で行わずバールなどの器具等を使って行うよう徹底された。また、ウェッジを入れる際の注意点として、不意の崩落でも衝撃が最小限となるよう、重量物とウェッジの間を1インチ程度に保つよう徹底されていた。
クリビングによるリフト高の1つの基準が4段(=約40cm)で、体格にもよるがこの高さがあれば人が通り抜けられるという目安となっている。そこで、この約40cmの空間に進入するトンネリング体験も行われた。国内の訓練施設などにおいて進入可能な狭隘空間として用意されているのは45cm~50cmの設定が多く、参加者にとって未知の領域。この体験では崩落の心配がないコンクリート製セパレート側溝を使用し、約40cmの空間を通ることができるか挑戦した。約40cm四方の空間の場合は体格により進入できなくても、約40cm×約70cmのように横幅がある空間であれば進入できるなど、少しの差で進入可否が変わることを体験。この体験により進入可能なサイズを肌で感じて知るとともに、要救助者救出の際は担架サイズも考慮してさらに広く空間を確保しなければならないという注意点を再確認した。
何のために、どのようにリフティングやムービングを行うかを学んだ後に、参加者は1チーム7~8名の3チームに分かれて実技に挑戦する。チームではバール等によりてこの原理を利用した持ち上げをする担当「リフター」、クリビングを行い重量物の安定化を図る「クリバー」、クリブを用意してクリバーやリフターに渡すとともに活動環境の整理整頓を行う「フィーダー」、現場の安全管理を担う「セーフティー」、そして指揮者の「アイシー」に役割分担をして、重量物の上げ下げや移動を時間の限り行った。
九州北部で初めて開催されたヘビーウェイトリフト&ムーブのベーシックコースだが、本勉強会の運営責任者である二場祐介氏によれば今後はアドバンスコースも開催予定だという。また、「こうしたUSAR系の勉強会を継続し、最終的には複合的な訓練会の開催を目指している」と、今後の展望について話す。
九州で始まった都市型捜索救助に関する新たな取り組みに、これからも目が離せない。
クリブの積み方例
実技訓練
本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。 本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。 |
写真・文:Rising取材班
初出:2023年10月 Rising 秋号 [vol.31] 掲載