ふるさと納税制度を活用した横浜消防の魅力PR事業

横浜市消防局の消防艇たち。奥から消防艇「よこはま」、消防艇「まもり」、救助艇「ゆめはま」。

 横浜市消防局では、ふるさと納税として横浜市に一定金額(5万円以上)を寄附し、寄附の使い道として「横浜消防を応援したい!(消防力の向上)」を選んだ人の中から希望者に対して、消防艇の乗船体験・船内見学や水難救助隊による訓練見学などの「特典」の提供を新たに開始した。
 この「特典」はふるさと納税制度における「返礼品」とは異なるもので、横浜市内在住者の場合「返礼品」を希望してのふるさと納税はできないが、「特典」については横浜市内在住者・市外在住者のいずれも対象となる。横浜市消防局では“海の消防”である鶴見水上消防出張所での体験や見学を通じて、横浜の安全・安心を実感してもらうとともに、横浜市や横浜消防の魅力をPRすることを目的にこの取り組みをスタートさせた。

会場となった鶴見消防署 鶴見水上消防出張所。

 記念すべき第一回目の消防艇乗船体験・船内見学及び水難救助訓練の見学が、令和5年10月1日の午前10時より実施され、当日は3組の希望者が横浜市鶴見区大黒ふ頭にある鶴見消防署鶴見水上消防出張所に集まった。
 まずはオリエンテーションとして鶴見水上消防出張所長による歓迎のあいさつや水上消防体制の概要説明などが行われ、続けて水難救助隊の車両・潜水資機材の展示が行われる。通常の防災イベントなどで行われる展示とは異なり、1回あたりの定員は最大20名を予定するなど、他では経験できない「濃密な見学」ができるよう配慮されており、参加者に対して隊員がマンツーマンで対応し、車両や資機材、それらを駆使した活動についてじっくりと説明してくれる。
 こうしたスタイルで見学会を行うのは、“陸の消防”と異なり、海の消防は「岸から離れた海上での消防艇による放水」や「水の中で活動を展開する水難救助隊」など、その活動の細部を市民が間近で目にする機会がないという実情があるため。そこで、こうした機会を通して水上消防について触れてもらい、活動に対する理解を深めていきたいという思いから、この取り組みがスタートしたといえる。

水難救助訓練が披露を前に装備の着装を行う隊員たち。

 水難救助隊による訓練が披露される際も、まずは陸上にて環状検索の実演を展示する。隊員の動きや役割を再現しつつ「状況によっては伸ばした自分の手が見えないといった状況もよくある。隊員間はロープによる合図で意思疎通を図る」「水上にいる隊長は水面に浮かんでくる気泡により、潜水隊員の動きを把握する」といった豆知識も交えて水中での活動の詳細が解説され、想像以上の過酷な活動が行われていることに、参加者からは驚きの声が上がった。
 説明に続いて、実際の水難救助訓練が披露される。水難救助隊を乗せた救助艇「ゆめはま」が現場に到着すると、潜水隊員が直ちに潜水を開始。環状検索により要救助者を発見し救出するまでの一連の活動が展示された。

消防艇「よこはま」の乗船体験。船内見学や甲板から横浜港の景色を見る。

 休憩をはさんで、いよいよ消防艇の乗船体験が行われる。コンビナート火災や大規模な市街地火災に対応するため、毎分5万リットルを放水できる大型消防ポンプと放水砲を装備した消防艇「よこはま」に参加者が乗り込むと出発。操舵室内から大迫力の放水を見学した後、船内を見学しつつ甲板へ移動し、潮風を感じながら横浜港のクルーズを味わった。ちなみに、冬期の午後の部であれば横浜港の夜景を見ることができるそうだ。

 他では体験できないこの濃密な見学会は、令和5年10月から令和6年3月まで、1か月あたり1日程度の開催が予定されている。開催日についてや詳細は横浜市の申込ページで確認が可能だ。

 

  • 庁舎前に整列した隊員らと参加者が顔合わせを行う。
  • 鶴見水上消防出張所長の天野雅巳消防司令による歓迎のあいさつ。
  • まずは庁舎内にて水上消防体制の概要説明などが行われる。
  • 水難救助隊の車両・潜水資機材の展示。
  • 並べられた資機材について水難救助隊が解説を行う。
  • 水難救助装備の体験着装。装備の重量感も肌で感じ取ることができる。
  • 水難救助装備の体験着装。装備の重量感も肌で感じ取ることができる。
  • 水難救助車の車内見学。「次の人」を気にせずにじっくりと説明を受けながら見学ができる。
  • 環状検索の実施方法についての解説。
  • 潜水隊員が水中での動きを再現し、普段は目に出来ない検索開始から要救助者発見までの流れを紹介。
  • 救助艇「ゆめはま」が潜水隊員を乗せ進入してくる。
  • 素早く入水する潜水隊員ら。
  • 環状検索の陣形を取り、水中へと潜っていく。
  • しばらくすると部位が激しく上下する。要救助者発見の合図だ。
  • 要救助者(ダミー)とともに水面に浮上。
  • 要救助者をゆめはまへ収容して想定終了。
  • 訓練を終えた隊員らに手を振る参加者たち。
  • 見学会では写真も撮り放題。隊員らもリクエストに応えて一緒に写ってくれる。
  • 消防艇「よこはま」に参加者が乗り込み、乗船体験・船内見学に出発。
  • 消防艇での横浜港クルーズを堪能する参加者たち。想像以上に多い船舶の往来など、横浜の海を実感してもらう狙いもある。
  • 大迫力の放水を操舵室から見学。
  • 潮風を感じながら赤レンガ倉庫やみなとみらい地区の景色を味わう。
  • 横浜ベイブリッジを下から見学。この日は大黒ふ頭に停泊する大型客船を見ることができた。
  • 一般の観光クルーズでは味わえない消防艇での横浜港周遊。

 

鶴見消防署
署 長 川村 滋 消防正監


 この見学会を担当した水上消防隊と水難救助隊は横浜港の港湾消防力を強化するため編成された「水上消防救助部隊」で、消防艇の乗船員と水難救助隊の潜水員とが一体となって活動を行う水難救助に特化した部隊です。その隊員らとの触れ合いを通して“海の消防”を身近に肌で感じていただき、より親近感を持っていただければと考えています。
 また、ご存じのようにふるさと納税による住民税の流出が、横浜市は全国でトップという実情があります。横浜市、中でも消防としての魅力を多くの皆さんに発信していき、それが応援に繋がればと思っています。

 

鶴見消防署 鶴見水上消防出張所
消防艇「よこはま」 森 正人 消防司令補


 一般の方であれば乗船はせず岸壁から消防艇を見てもらう形となり、体験乗船や見学をここまでの規模で行うのは初めての試みと言えます。限られた時間でしたが、港内の見所を凝縮してお見せできたと思います。
 横浜市は消防力の整備指針からみて消防艇が2艇必要な地域。そこで、緊急消防援助隊に登録し市外にも出る「よこはま」と、市内を中心に活躍する「まもり」の2艇を運用しています。
 基幹装備である消防艇、それらが守る横浜港を肌で感じていただけたのではないでしょうか。

 

鶴見消防署 鶴見水上消防出張所
水難救助隊 薄 誠二 消防士長


 水難救助隊は活動するのが「海の中」なので、市民の方に自分たちの活動を広くアピールするということがなかなか難しいところがあります。そうした中で、寄附を通して「横浜消防を応援したい」という想いを持った前向きな方々に来ていただくことができ、活動についていろいろお話しさせていただいたり、活動の様子についてお見せできたりしたことは、理解を広めていく第一歩として非常に有意義だったのではないかと思います。
 また、横浜市だけでなく、全国で水難救助業務にあたる仲間たちのアピールにも繋がったのではないでしょうか。

 

 


 

取材協力:横浜市消防局

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

 


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