横浜市消防局 本部庁舎竣工記念式典・内覧会

旧保土ケ谷消防署跡地に新築された横浜市消防局の本部庁舎。

 関東大震災から100年の節目の年となる今年、横浜市消防局の新本部庁舎が完成し10月から供用を開始した。
 これまで同局は独立庁舎ではなく、市の中央部に位置するという立地から保土ケ谷区役所(保土ケ谷区総合庁舎)本館(4~7階)に消防本部機能を、隣接する別棟に119番通報の受付や指令管制などを担う司令センターを置いていた。新たな消防本部庁舎はこれら機能を集約することで災害発生時に情報を即座に共有できるようにしつつ、機能強化を図ることを目的に独立庁舎として整備されたものだ。
 新庁舎の用地となったのが、区役所に隣接していた旧保土ケ谷消防署跡地。プロジェクトとしては先行して保土ケ谷区川辺町から直線距離で約700mの同区神戸(こうど)町へ保土ケ谷消防署を新築移転させ、その後、令和2年12月より消防本部庁舎建設工事がスタートした。

 令和5年7月末に竣工し、10月より供用が開始された新たな消防本部庁舎は、大規模災害発生時であっても消防機能の継続性を確保するため、免震構造を採用し、消防司令センターを一体的に整備したほか、緊急消防援助隊等と連携強化するため屋上にヘリコプターの飛行場外離着陸場(ヘリパッド)が整備されている。
 供用開始を前にした令和5年9月24日には真新しい消防本部庁舎において竣工記念式典が行われ、横浜市長、市会議長、消防庁長官、全国消防長会会長をはじめ市会関係、地域団体関係、消防関係、関係団体、工事関係など約100名が出席。式典では、新庁舎完成を祝いテープカットが行われ、続けて式典参加者を対象とした内覧会が実施された。また、式典終了後の午後と10月1日には市民向けの内覧会も行われた。

中央のブルーのヘリパッドが目を引く建物が新庁舎。(写真/横浜市消防局提供)

 新庁舎の主な特長としては、まず消防機能の継続性強化が挙げられる。大規模災害時にも消防本部機能を継続させるため、建物は免震構造を採用するとともに電力供給や通信体制を二重化が施されている。また、ライフラインが途絶した場合でも7日間稼働できる非常用発電機燃料タンク、受水槽、雑排水槽等の容量を確保。さらに、風水害時の浸水対策として機械室や非常用発電機などの重要機器を上階に設置している。

 もう一つの特徴が迅速かつ機動的な消防本部機能の強化という点だ。消防司令センターを「本部運営室」や「本部会議室」と一体的に整備することで、災害時に消防司令センターで収集した情報や、航空隊・災害監視カメラ等の映像情報をリアルタイムに活用し、迅速な災害対応方針の決定と指揮命令を実現。また、指令管制を行う指令台も新たに3台増やし16台に増強(119番通報を受信する指令台は10台から13台)。屋上には飛行場外離着陸場(ヘリパッド)を整備することで、横浜市内で大規模災害が発生した際に緊急消防援助隊の指揮支援部隊が直接ヘリで乗り込めるようになるなど、受入と連携の強化も図られている。

 SDGsの達成に向けた取り組みもポイントだ。横浜市では建築物環境配慮制度として「CASBEE(キャスビー)横浜」という独自制度を設けている。新庁舎はこの制度における最も評価の高い「Sランク」になるよう、建築物の省エネルギー対策、周辺の街並みとの調和、緑化対策などが行われている。また、雨水の雑用水への利用や、直射日光を遮りながらも室内に自然光を取り入れることができる「ライトシェルフ」を採用することにより、自然エネルギーの活用が図られている。

特別高度救助部隊「スーパーレンジャー」。

 新庁舎は10月10日の総務部の移転をもって供用開始となり、以降、10月16日に警防部の一部及び救急部、10月23日に予防部、11月9日に司令センターというように、セクションごとに段階を追って移転が進められる。また、この新庁舎建設プロジェクトにあたり、特別高度救助部隊「スーパーレンジャー」(SR)は令和元年より中消防署本牧和田消防出張所等へ仮移転しているが、総合指揮隊のみ先行して10月16日に新庁舎に戻ることになっており、以前のように災害覚知直後からSRが司令センターにて情報収集をスタートできる体制が復活する。なお、旧司令センターのある別館は令和6年1月頃より改修工事を実施、特別高度救助部隊の執務室や緊急消防援助隊受援室などが整備される予定であり、工事完了予定の令和7年2月に残るSRの各隊も本部に再集結。これをもって全館供用開始となる。

 首都直下地震、南海トラフ地震など、大規模地震の発生が危惧され、また、気候変動等の影響により激甚化、頻発化する風水害や増加が続く救急需要への対応等、消防の果たすべき役割はますます大きくなっている。
 こうした中にあって、消防はあらゆる災害に対して、いかなる場合も機能を停止することなく、市民からの要請に迅速・的確に応え続けていくことが何より重要だ。
 横浜市消防局では消防本部機能が強化された新庁舎完成により、その役割を十分に発揮し、市民の安全・安心をしっかりと守っていくこととしている。

 

【消防本部庁舎概要】
◎所在地:横浜市保土ケ谷区川辺町2番地20
◎構造及び面積
   【本館】
   ・地上7階/地下1階/屋上(飛行場外離着陸場)
   ・1階柱頭部中間層免震構造
   ・建築面積1,528.24㎡ 延床面積11,412.54㎡
   【倉庫棟】
   ・地上3階
   ・耐震構造
   ・建築面積167.05㎡ 延床面積423.99㎡
◎開庁日:令和5年10月10日(火)

 

竣工記念式典

  • 令和5年9月24日に新消防本部庁舎において竣工記念式典が行われた。
  • 山中竹春横浜市長による市長挨拶。
  • 瀬之間康浩横浜市会議長による来賓祝辞。
  • 原邦彰消防庁長官による来賓祝辞。
  • 吉田義実全国消防長会会長(東京消防庁消防総監)による来賓祝辞。
  • 右から平中隆横浜市消防局長、吉田義実全国消防長会会長、瀬之間康浩横浜市会議長、山中竹春横浜市長、原邦彰総務省消防庁長官、飯田孝彦横浜市消防団長会会長が並び、記念のテープカットが行われる。

 

内覧会

  • 竣工記念式典に続き、式典参加者を対象とした内覧会が実施された。写真は2階のエントランスで、来庁者を迎えるスペース。
  • エントランス正面には堅牢な庁舎を印象付ける「レンガ壁」があり、横浜市消防局のロゴを配し、横浜市の消防本部の玄関を飾っている。
  • 天井には木材を使用し、温かみのある空間を演出。
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来庁者は2階エントランスの受付にてセキュリティーゲート通行券の発券を受け、このゲートを通過して各フロアの来庁者ゾーンへ進む。
  • 2階の予防部執務室。地震発生時の落下を防ぐという狙いから天井レスとしており、開放感のあるレイアウトフリーオフィスとなっている。3階の警防部・救急部や7階の総務部の執務室も同様の構造。また、各フロアとも来庁者ゾーンと執務ゾーンを明確に分離しており、来庁者との打合せスペースが別途設けられている。
  • 管理職の席。
  • ミーティングスペース。
  • オンライン会議などに対応するブース。右側の個室は複数名に対応したもので、左側のグリーンのパーテーションは1名で利用するスペース。
  • パーテーションは防音仕様となっている。
  • フロア内に給湯スペースが設けられている。
  • 4階の消防司令センター。119番通報の受付や指令管制を担う消防本部の中枢となる場所で、旧センターと同様に2階吹き抜け構造が採用されている。機能強化を目指すべく指令台も新たに3台増やし16台に増強(119番通報を受信する指令台は10台から13台)。
  • 指令台は指令機器の操作性向上が図られている。
  • 最後列に置かれた総合指令台。
  • 正面には車両状況、災害監視カメラ、地図検索画面など必要な映像を表示し、全指令管制員で情報共有することができる大型マルチディスプレイを備える。
  • 竣工記念式典の会場として使用された本部運営室。災害時、迅速な情報共有を図れるように消防司令センターに隣接して設置されており、職員が集結して災害対応にあたる。また、将来の指令システム設備更新を想定し、消防司令センターと同規模の空間が確保されている。
  • 5階の本部会議室。本部運営室で集約した情報や災害現場からリアルタイムの映像等に基づき、消防局長をはじめとする責任職が、災害対応のための意思決定や判断を行う場所。消防司令センターと本部運営室を見下ろせる構造であり、平時は見学スペースとしても活用される。
  • 建物正面の歩道に面したレンガ壁には、通行する人の目線の高さに横浜市消防局のロゴが設置されている。
  • 建物2階の窓部分に並んで横浜市消防局のロゴが掲げられており、消防車両用出入口横に設置された掲揚台の国旗や市旗、消防本部旗と同じ高さになるよう設計されている。
  • 屋上にはヘリで派遣される緊急消防援助隊・指揮支援隊や救援物資の搬送などをいち早く受け入れるため、飛行場外離着陸場(ヘリパッド)が備えられている。
  • ヘリパッドの床面は23.3m×23.3mと大きく、横浜市消防局が保有する消防ヘリ(AW139)に対応。同局のロゴをイメージした配色を採用し、青色のベース地に白色でマーキングなどが入れられている。
  • ヘリパッドとエレベーターホールを結ぶブリッジデッキ。エレベーターホールの上部には各種空中線群を装備した無線塔を備える。
  • 屋上階のエレベーターホール。ここはヘリ飛来時の待機スペースとしても使用される。
  • 1階の特別高度救助部隊(SR)用車庫スペース。その後方の柱上部、黒いゴムカバーが施された部分に免振装置が備えられている。1階・2階の間に免震装置を設置することで千年に一度規模の水害により冠水した場合でも免震層を守り、機能が維持できるよう配慮している。
  • 同じく、1階・2階の間に設置された免震装置。写真の「減衰こま」は消防をイメージする朱色に塗られ、消防庁舎を象徴するアクセントとしても機能している。
  • 1階の各所に準備されている止水板。河川の氾濫等による計画規模(1m以下)の浸水被害を防ぐため、浸水の恐れがある時は庁舎を囲うようにこの止水板を設定する。
  • 庁舎側にも止水板をセットするための構造が備えられている。
  • SR用車庫から道路に至る消防車両用出入口には、電動開閉式の大型折り戸が備えられている。これも消防をイメージする朱色に塗られ、消防庁舎を象徴するアクセントとなっている。

 


横浜市消防局 総務部 総務課

担当課長 河合 良太郎 消防司令長


 新庁舎の完成により、消防本部機能が強化されました。首都直下地震など大規模地震の発生が危惧され、また激甚化・頻発化する風水害や増大する救急需要への対応など、消防の果たすべき役割にしっかりと応えていき、市民の皆様の安全・安心な暮らしを守ってまいります。

 

被服なども仕様一新!

内覧会の行われた2階エントランスでは新デザインの被服なども展示された。被服のジェンダーレス化といった時代の流れや本部名ロゴの制定といったタイミングも重なり、これを機に大幅なデザイン変更が行われている。

 

活動服(写真左)と雨衣(写真右)。活動服はジェンダーレス化に伴いフロントファスナー式となり、ベルトも定番のローラーバックル式から黒のダブルピン式に変更。保安帽は白色でチンカップを備えたモデルに変更。

 

活動服と雨衣はともに紺色をベースカラーとし、肩ヨーク部などにオレンジの配色がなされている。雨衣は上衣の右腕と腰、下衣の左腿部分に大きく本部名ロゴが入れられている。

 

救急服(写真左)と救助服(写真右)。救助服は平成25年に仕様が刷新されており、現在はベルトが黒色に変更されるなど細部で修正が行われている。救急服は前合せがボタン式であるため、現状は男性用と女性用の2種が用意されている。なお、横浜市では当初より替えりと肩章カバーは採用しておらず、ベルトも反射式ではなくグレーのローラーバックル式を使用している。保安帽は救急隊は軽量白色モデル、それ以外は銀色モデルに別けていたが、今回からは白色チンカップ付モデルが全隊共通で採用される。

 

救助服の背文字にも本部名ロゴを採用。あわせて「RANGER」の文字が入る。

 

現行の防火服。横浜市では輻射熱や薬品などからの防護を念頭に、長きに渡り銀面仕様を採用してきた歴史がある。現在は試作防火服を試験配備するなど仕様変更に向けた取り組みが進められている。

 

銀面が採用される前に使用していた、刺子タイプの防火服。本部庁舎リニューアルという歴史的な日に、現行防火衣とともに展示がなされた。

 

 


 

取材協力:横浜市消防局

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

 


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