木更津市消防本部 高度救助隊発足!!

 南房総の東京湾岸に位置する千葉県木更津市は、神奈川県川崎市から東京湾を横断して千葉県へ至る高速道路「東京湾アクアライン」の着岸地として知られ、東京都心や東京国際空港へのアクセス向上によりアウトレットモールなど大型商業施設が数多く進出し、人口流入も加速。目覚ましい発展を続けている街といえる。

 こうした都市の成長を踏まえつつ、自然環境や社会情勢の変化による災害の複雑多様化や、発生が懸念される首都直下地震や南海トラフ地震等の巨大地震に備えるべく、木更津市消防本部では更なる消防力の強化を目指してきた。

 令和4年度には救助工作車とあわせ高度救助用資機材の整備を行い、これらを使いこなすため隊員らが令和5年4月~6月にかけて訓練を実施。知識技術の習得ができたことから、令和5年7月1日に高度救助隊を発足させた。高度救助隊の整備は県下で12番目となる。

 令和5年7月3日には高度救助隊発足式が挙行され、15名の精鋭で編成される同隊を代表し、隊長を務める露﨑淳也消防司令長が「市民の身体と生命、財産を守る使命のもと、今後も訓練を重ね職務に励む」と決意表明を行った。その後、渡辺芳邦市長から隊員ら一人ひとりへ胸章の授与が行われた。

 また、式典の最後には今回整備された高度救助用資機材を駆使した救助訓練も披露。市内において震度6強の地震が発生したとの想定のもと、倒壊家屋内部に生き埋めとなった要救助者の捜索救助や、転覆車両からの救出救助などが行われた。

 木更津市消防本部高度救助隊では新たに整備された最新鋭の車両や装備と共に今後も様々な訓練に取り組み、市民が安全で安心して暮らせる街の実現を目指して活動を続けていく。

 

  • 露﨑消防司令長による決意表明。
  • 渡辺市長から隊員ら一人ひとりへ胸章の授与が行われる。
  • 真新しい胸章をつけ整列する15名の高度救助隊員たち。

新たに制定された木更津市消防本部高度救助隊の胸章。

 

救助訓練披露

  • 地震を想定した救助訓練。まずは環境測定を実施し、異常なしが確認される。あわせて、倒壊家屋周辺に進入統制ラインが設定され、安全管理が徹底される。
  • 地中音響探知機は画像探索の機能をもつ最新モデルを導入。設定した振動センサー(写真右下)のうち反応があった2番センサー付近に探索用カメラを挿入し、内部と要救助者の状況を確認。通話機能にて声掛けや情報聴取を行う。
  • 倒壊建物内部に要救助者を確認。救助用支柱器具により進入口の安定化を図る。
  • 隊員2名が内部進入を図り、救出を開始する。
  • 倒壊建物内部からの救出に成功。
  • 新たに導入したスタブファストにより車両の安定化を図る。
  • 車両更新に合わせ油圧救助機材はバッテリー式を採用。活動範囲が広がり、活動効率も向上が図られた。
  • 隊員が車内へ進入して要救助者に接触する。
  • 頸椎固定などの処置後に救出を開始する。
  • 動揺を与えぬよう慎重に要救助者をバックボードへ収容し、救出を図る。

高度救助用資機材等

 高度救助隊の発足に合わせ高度救助用資機材や高度探査装置も整備された。これらは必要に応じ救助工作車や支援車にて現場に投入。最新鋭の高性能装備が高度救助隊の活動を支えている。

  • 【画像探索機I型】倒壊家屋や瓦礫の隙間から軟性蛇管式のスコープを挿入し、内部の様子を確認できる。また、内部の温度・ガス測定・集音・空気の送気も可能。
  • 【画像探索機II型】隊員が進入できない隙間から内部の様子を確認できる硬性伸縮式の探索機。先端に360度カメラを備える最新モデル。
  • 【地中音響探知機】振動センサーにより生存者の声や動きの音響を聞き取ることができる。また、硬性伸縮式の探索用カメラを備えており、マイクによる声掛けや情報聴取を行うこともできる。
  • 【熱画像直視装置】赤外線を感知して物体や空間の温度を測定し、熱源を明確に可視化できる装置。
  • 【夜間用暗視装置】わずかな光を増幅し、暗闇の中の物体を鮮明に映し出すことができる装置。
  • 【地震警報器】地震の初期微動を感知して警報を発し、活動隊員の退避を迅速に行うための装置。
  • 【電磁波探査装置】高度探査装置として電磁波探査装置を装備。要救助者の動き、呼吸や心拍を電磁波により検出し、位置を特定することができる。

救助工作車III型

 高度救助隊の基幹車両となる救助工作車は、木更津市特定防衛施設周辺整備調整交付金を活用して更新整備されたもの。先代車両は運用開始から24年が経過しており、車両や積載された資機材の老朽化が否めなかった。高度救助隊発足にあわせII型からIII型へバージョンアップを図るとともに、時代や都市環境の変化に対応するため随所に工夫が盛り込まれている。
 車両構造としてはサブフレーム側に隊員室を備えたキャブバス型とすることで車内空間を拡充。主照明装置に起立型のナイトスキャンチーフを採用することで積載庫内をポールなどが占有することを回避。また、先代車両には未搭載だったクレーン装置も装備したが、サイドPTOから動力を得る仕様とすることで軽量化を実現。こうした工夫により積載キャパを最大限に確保している。

 

キャブバス型で車内空間を確保するとともに、軽量化などの工夫で積載キャパも充分に確保した救助工作車。

 

左側積載庫

交通救助などに対応する資機材などを積載した左側積載庫。

  • 油圧救助機材を収めた展開式収納。ハリガンツールや救助鋸といった話題の最新ツールも積載されている。
  • 油圧救助機材を収めた展開式収納の裏面にスタブファスト、その奥にあて木などが収納されている。
  • コンビツールやラムシリンダーも電動式。タイヤハウス上の引き出し収納に収められている。

 

右側積載庫

投光器一式や切断器具、担架などを収納した右側積載庫。

  • 投光器一式は展開式収納に。その奥には予備空気ボンベラックなどが備わっている。
  • 切断機やチェーンソーもマキタ製のバッテリー式を採用。メーカーを統一することでバッテリーの共通化を可能にしている。
  • 後部の縦型収納には長尺の救助用担架が収納されている。

 

車内

  • 運転室。カーナビゲーションシステムやバックモニター、AVM車載端末、ワーニングモニターなどが並ぶ。
  • 座席には防汚カバーがセットされている。
  • ワーニングモニターはイラスト式で表示されるため開放箇所などが把握しやすい。
  • サブフレーム上に作られた隊員室。
  • 隊員用の座席には米国・seats社製のBATTALION SERIESを採用。
  • 空気呼吸器の固定には着脱が容易なSmart Dockを採用している。
  • 座面は肉厚でボルスター(左右の膨らみ部分)によりホールド性も確保。安全性向上や長時間乗車時の負担軽減を図っている。
  • 隊員室専用に独立エアコンを備える。
  • 乗降ドア横にナイトスキャンチーフのコントローラーを備える。

 

車両外周

車両後部には先代車両に未搭載だったクレーン装置(タダノ製TM-ZX300)を装備。

  • 車両後方には車両製作を担当した櫻護護と坪井特殊車体のプレートが貼られている。
  • リアウインチは大橋機産製の電動5t引きモデル(CW5103DV)を装備。
  • フロントウインチは大橋機産製の油圧5t引きモデル(CW5202F)を装備。

災害用多目的支援車[支援車III型]

 救助工作車の更新整備に先立ち、令和2年12月に「災害用多目的支援車(支援車III型)」の運用を開始している。同車は運用開始から27年が経過していた資機材搬送車の更新車両として令和2年度緊急消防援助隊設備整備費補助金を活用して配備されたもので、先代車両と同じく資機材搬送機能を有するとともに、最大20名の人員輸送機能を付加したもの。消防活動を支える後方支援はもちろん、「救助2号車」として水難救助事案への対応やテロ災害等の特殊災害における特殊資機材等の搬送といった救助工作車(救助1号車)の活動を補完する役目も担っており、同車も高度救助隊が活用する。

 

トラックシャーシベースのバス型構造が特徴的な災害用多目的支援車。

 

隊員室

 

積載庫

 


 

救助工作車:SPEC DATA
車名 日野
通称名 レンジャー
シャーシ型式 2KG-GX2AGBA-DBCBAAA改
全長 8,100mm
全幅 2,450mm
全高 3,250mm
ホイルベース 4,000mm
最小回転半径 6.8m
車両総重量 11,945kg
乗車定員 5名
原動機型式 A05C
総排気量 5,123cc
駆動方式 4×4
ウインチ(能力)  前:大橋機産製CW5202F(油圧/5t)
 後:大橋機産製CW5103DV(電動/5t)
クレーン(能力) タダノ製TM-ZX300(3段/2.9t)
照明装置 佐藤工業所製ナイトスキャンチーフ
配備年月日 令和5年3月31日
艤装メーカー 坪井特殊車体株式会社
契約先 櫻護謨株式会社

 

 

 


 

本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。
本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。

 

お 知 ら せ
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

 


 

取材協力:木更津市消防本部

写真・文:木下慎次


初出:2023年10月 Rising 秋号 [vol.31] 掲載
(※この記事はRising掲載記事を補完したWeb完全版です)

 


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