令和5年度 建設業協会・消防機関・警察機関 土砂災害対応連携訓練
駿東伊豆消防本部では総務省消防庁から重機などの無償貸与を受け、2021年3月に田方北消防署に配置するとともに重機隊を新設。同年7月より運用を開始した。そして2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山の逢初(あいぞめ)川に沿って発生した大規模土石流災害では重機隊も出動し、活動を実施。しかし、現場において活動を共にする建設業者との圧倒的なスキルの差を痛感。この経験をもとに、関係団体の協力を得て土砂災害対応連携訓練を開始させた。当初は駿東伊豆消防本部と建設業者の合同訓練として2021年に実施。翌年に行われた第2回では同様の重機を運用する静岡市消防局も参加。さらに、2023年9月26・27日に実施された今回の訓練では静岡県警察本部で重機を運用する機動隊も参加。建設業協会も静岡県全域から招集され全県的規模にまで成長している。
救助実施機関の重機運用における最大の課題と言えるのが、操作取り扱い訓練の行いにくさと言える。訓練を行える環境が確保しにくく、日常においては基本的な掘削やつかみ動作の習熟など限られた内容しか実施できない。こうした悩みを理解し、全面的協力を買って出たのが、伊豆の国市の土屋建設株式会社だった。駿東伊豆消防本部とともに中心となって訓練計画をまとめる同社では、訓練会場として自社が保有する残土処分場を提供。さらに、悪路走行用訓練コースを会場に作り上げ、通常では行うことが困難な「悪環境」も用意。また、関係者同士でコミュニケーションを取ることによって地域の防災力を上げていきたいという願いから、同社では静岡県内建設業各団体との調整を図り、県内各地の建設業者がインストラクターや安全管理などの運営側スタッフとして参加するスタイルを作り上げている。
最高の環境を惜しみなく提供してくれた関係団体に応えるべく、駿東伊豆消防本部でも訓練内容のバージョンアップを図った。県内の救助実施機関と建設業者が一堂に会すという状況をふまえ、実災害でこれら機関の連携が必要な場面をシミュレーションしておくべく「現地合同調整所運営訓練」という要素をあえて取り入れた。土砂災害の現場指揮本部に集結した各機関が、それぞれどのような活動を行うか、どのように連携を図って活動を展開するかといった点を、現地合同調整所運営訓練を通して再現し、体験できるようにしたのだ。また、認定NPO法人災害救助犬静岡の協力により、救助犬による捜索活動のデモも実施。捜索時の注意点などのレクチャーも行われ、運営側スタッフとして参加する建設業者にとってもプラスになる内容で構成されているのが特徴的だ。
重機の訓練では、掘削やダンプへの積載、道路啓開のための崩土・障害物除去といった基本的な操作技術はもちろん、この訓練のために用意されたコースを用いて悪路の移動や障害物の乗越え、登坂(移動)要領といった走行技術のレクチャーも行われた。また、今回の訓練では新たに重機以外の要素もプラスされ、土砂災害対応では欠かせないチェーンソー作業要領も網羅。いずれも建設業や林業を営むプロをインストラクターとし、濃密かつ充実した指導が行われていた。
本訓練の最後には「重機による操作対決」を実施。消防、警察、建設業者が重機を用いた「棒倒し」に望んだ。これも余興的なイベントではなく、深い意味がある。棒を倒さず土砂をかくという共通の目的の基に重機を動かした際に、実施者によってどのような違いがあるのかを見てみようというのがテーマなのである。
訓練に参加した各機関の重機隊の隊員らは共通して「伊豆山の大規模土石流災害を経験し、技術習熟の必要性を感じていたが、こうした訓練はそうそう行えるものではない。またとない学びの機会を得ることができ、手ごたえをつかむことができた」と話す。
また、土屋建設株式会社の土屋昭専務は「災害現場などで共に活動する際も、今回の訓練で相互理解を深めたことが必ず役に立つと思う。今回からは警察本部や静岡県全域の建設業協会が新たに参加したが、今後はさらに、各地域での水平展開も図っていきたい」と話してくれた。
激甚化する自然災害。また発生が懸念される南海トラフ地震等の発災時には、消防や警察と建設業各団体は協働する関係であり、相互理解が不可欠となる。さらに、風光明媚で観光産業が主力である静岡県では、地域住民のみならず、多く訪れる観光客を安全に家に帰すことも必要となる。こうした現実を的確にとらえ、合同訓練により救助実施機関の能力向上や建設業各団体との顔の見える関係の構築による協働体制の強化を図り、地域における防災力の向上を目指すこの取り組みは、全国からも注目を集めている。