救急資器材展2017 in CHIBA
平成29年11月21日~22日の2日間にわたり、幕張メッセにて第26回全国救急隊員シンポジウムが開催された。この併催企画として実施されたのが「救急資器材展2017 in CHIBA」だ。シンポジウムの参加者に対して最新の機器・技術・知識等の情報を提供することを目的に実施される救急資器材展だが、今年は救急車両やその関連アイテムについてニューフェイスが多く登場した。
電動昇降式ストレッチャーと対応防振架台
会場にて常に人の波が途切れなかったのが車両出展コーナー。ここでは第45回東京モーターショー2017で公開されたばかりである日産のパラメディックコンセプトが登場。今回は実車に乗り込めるということもあり、多くの救急隊員らが集中していた。
そして、救急車の関連アイテムとして大きな注目を集めたのが「防振架台」(防振ベッド)だ。
防振架台自体はいわゆる高規格救急車(現在は要件具備の確認行為が廃止された為、高規格救急自動車準拠などと呼ばれる)と同時に誕生したもの。救急車専用、さらに日本独自のアイテムであるがゆえに、防振性能の強化やメンテナンス性の向上といった点のみ改良が施される程度で、進化のスピードは緩慢と言わざるを得なかった。さらに、防振架台が対応するストレッチャーに限りがあることから、救急車両の主要装備といえるストレッチャーの選択肢にも、おのずと制限がかかってしまう結果となっていたのだ。こうした現実を打破する存在として、株式会社赤尾が参考出品したのが「VCS-02防振架台」なのである。
車両構造の違いが搬送用資器材の違いに
VCS-02が誕生したのは「日本の救急車両に欧米で普及している電動ストレッチャーを搭載するため」に他ならない。
傷病者の体格がよく、救急隊も2名乗務というパターンが多い欧米。当然、ストレッチャー自身の省力化が図られており、電動アシスト機能でストレッチャーの昇降を助けるモデルが普及している。車内収容時にアシスト機能が昇降をサポートしてくれるため、救急車内の床面にそのまま滑り込ませることができ、床面のファスナーによりロックを行い、ストレッチャーをホールドしてくれるという仕組みが一般的だ。また、このファスナーに自動収容機能を備えたタイプもあり、車内収容を自動化できるというものも珍しくない。
こうした一連の性能を実現できるのも、欧米では防振架台を用いていないため。
欧米の救急車両は基本的にエアサス仕様となっており、これにより患者室自体の防振が図られている。一方、日本の救急車両はノーマルサスペンションが一般的。そのため、車両とストレッチャーの間に防振架台を介する方式が主流となっている。
国産救急車に対応
防振という要素をかなえるためには防振架台が必須。その防振架台は従来型ストレッチャーとの相性を考慮して設計されたものであり、電動ストレッチャーをそのまま載せることはできない──。
こうした現実があり、電動ストレッチャーのような新たな搬送用資器材が誕生しても、日本の救急現場には入ってこないという悪循環が生じていたわけだ。この負の連鎖を断ち切るべく開発されたのがVCS-02なのである。
構造はストレッチャーメーカー純正のファスナーとの組み合わせを考慮して、至ってシンプルに設計されているのが特徴だ。今回の出品例で見てみると、この防振架台に日本ストライカー株式会社の電動ストレッチャー「Power Pro XT 6506」と専用手動ファスナーを組み合わせている。また、展示には国産救急車を模した空間にこのシステムを設置。電動ストレッチャーと防振架台を搭載しても、活動空間が狭くならないことが分かるよう配慮されていた。
広がる可能性
現在、消防では女性消防吏員の活躍推進をテーマに取り組みが進められており、従来以上に女性救急隊員が増加することが予想される。また、制度発足初期からの救急救命士については年齢も高くなってきている。こうした実情に役立つ仕組みとして期待されるのが電動ストレッチャーであり、その採用可能性を高めてくれる防振架台がようやく誕生した。当然、従来システムよりは高額になってしまうが、発想次第では逆に予算の縮減も期待できる。従来型ストレッチャーよりも丈夫に作られた電動ストレッチャーは、過走行により更新頻度が高い車体よりも長持ちする可能性が考えられる。そうすれば、ストレッチャーと防振架台を流用しての車両更新といったことも可能かもしれない。これはあくまで机上の推論であるが、実戦に投入されその耐久性が証明されれば、このような新しい作り方も可能になるかもしれない。このように、傷病者の安静維持や隊員の労務負担軽減だけでなく、様々な面における可能性を秘めた注目の動きといえるのである。
救急車両やその主要装備に明るい光が差し込んだ。そう実感できる展示が、救急資器材展2017では多くなされていた。
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
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写真・文:木下慎次
初出:web限定記事