注目の消防車両 CLOSE-UP! 救助工作車 II型
大分県の北東部、国東半島の西側に位置する豊後高田市。同市を守る豊後高田市消防本部において、大分県内初となるバス型救助工作車がデビューを果たした。同市は周防灘に面し、市内中心部を二級河川の桂川などが流れる。また、管内にはため池が多く、これら水辺での救助活動に対応すべく、全職員の9割以上が潜水士の資格を持つ。こうした特徴をふまえ、同本部では大分県内で唯一、緊急消防援助隊の特殊装備部隊・水難救助小隊に登録されている。
平成3年に配備された先代車両の老朽化に伴い、28年ぶりに製作されたこの救助工作車は、運用する現場隊員らが意見を出し合い、仕様を練り上げていった。1署1出張所体制の同本部には梯子車といった大型消防車両は配備されておらず、救助工作車が最大クラス。先代車両は中型免許で運転できたため、若手職員は中型免許保有者が多い。そこで、新救助工作車は「中型免許で乗れる車両」であることを条件とした。また、配備される本署車庫の構造上、全長は8m未満であることが必須だった。一方で、水難救助事案に対処する際の車内着装や緊援隊として広域応援出場する際の長距離移動を考慮し、車内空間確保のためにバス型とする方針が決まった。この仕様は全国的にニーズが高い理想の仕様といえるのだが、難易度が高いため実際に形となるケースは稀だ。
不可能を可能にした秘密は、緻密に計算された装備・資機材選定にある。中型免許での運用と少人数での対応を実現するため、小型軽量で高性能なアイテムを採用。常時積載を前提としていた救助用ボートはレスキュークラフト3800とすることで車上のボックスに収めることができた。船外機については車両全長を8m未満にするため、定番の後部吊り下げ積載ができない。そこで、積載庫内に収容するという大胆な積載方法を採用。マーキュリー社製シープロの25馬力モデルとすることで、他の積載への影響を最小限に抑えている。また、照明装置をナイトスキャンチーフとすることで軽量化はもちろん、積載庫内すべてを収納として活用できるようにするなど工夫を行っている。このように、あらゆる面での工夫の積み重ねにより軽量化と積載キャパの確保を実現。結果として約500kgの余裕重量を確保することに成功。広域応援時の増載にも十分対応できるポテンシャルを確保している。
クレーン・照明・ウインチという必須装備を備えながら、主要救助資機材と水難救助資機材を併載し、その上で積載量に約500kgの余裕を持たせた中型免許運用できる救助工作車。夢のようなこの車両は、艤装を担当した帝国繊維においても初の仕様だ。現場サイドと艤装メーカーの創意工夫により誕生した同車は、管内での通常運用と緊急消防援助隊としての運用の両面を力強く支える頼もしい一台に仕上がっている。
豊後高田市消防本部が製作した新救助工作車。第3のバス型とも呼ばれる帝国繊維の「HX型」ながら、独自仕様や初の試みが多く取り入れられている。
ワイドシングルハイルーフキャブをベースにボデー前に隊員席を設けた新方式ハイルーフキャビンを採用しており、車内着装などが容易に行える。(写真左)/車両後部にはクレーンを装備。(写真右)
右側面には水難救助活動や緊急消防援助隊(特殊装備部隊水難救助小隊)を象徴するブルーを基調としたマーキングを施す。
右側積載庫には船外機が収められており、車上に見えるアルミボックスに救助用ボートを収納。ウエットスーツなどの個人装備は車庫内に用意してあり、出場時に隊員が車内へ持ち込み着装する。
コンパクトで高性能なマーキュリー社製の船外機を採用することで、無理なく積載庫内へ収納。引き出し式ラックを備えているため取り出しやすい。
救助用ボートには同等クラスのボートに対して約22~59kg軽量なレスキュークラフト3800を採用。車上のアルミボックスへの常時積載を実現し、少人数での搬送・運用を可能にした。
救助用ボートには要救助者の収容を容易にするファイバーライト・クレードルをセットできる。
左側面には一般救助対応や通常運用を象徴する赤を基調としたマーキングを施す。左右非対称のマーキングにより、同車の2面性を表現している。
右側積載庫には管内での出場の半数以上を占める交通救助に対応するアイテムを中心に積載。電動式大型油圧救助器具を採用することで積載キャパの確保や軽量化、活動の省力化を図っている。
少人数での運用を可能にするため、三連はしごなどは手動式梯子昇降装置LL-Ⅲにより搭載している。
SPEC DATA | |
車名 | 日野 |
通称名 | レンジャー |
シャーシ型式 | 2KG-GX2ABA |
全長 | 7750mm |
全幅 | 2360mm |
全高 | 3200mm |
ホイルベース | 3790mm |
最小回転半径 | 6.51m |
車輌総重量 | 10985kg |
乗車定員 | 5名 |
原動機型式 | AO5C |
総排気量 | 5120cc |
駆動方式 | 4×4 |
ウインチ/前(能力) | ロッツラー製TR-030/6(5t) |
クレーン | ユニック製UR-w303GRJKK(2.9t) |
照明装置 | 佐藤工業 ナイトスキャンチーフ(LED90w×4) |
配備年月日 | 平成31年3月25日 |
蟻装メーカー | 帝国繊維株式会社 |
先代車両と新救助工作車。
お 知 ら せ |
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。 また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。 |
取材協力(写真・情報提供):豊後高田市消防本部
文:木下慎次
初出:web限定記事