注目の消防車両 CLOSE-UP! 中型水陸両用車
近年では世界的な気候変動などの影響により、日本国内においても大雨に伴う大規模な水害や土砂災害が数多く発生し、甚大な被害をもたらしている。こうした現実をうけ、総務省消防庁では新たに「中型水陸両用車」として全地形対応車II型2式を整備し、緊急消防援助隊用の無償使用車両として徳島県の板野東部消防組合消防本部と千葉県の山武郡市広域行政組合消防本部に配備した。
これにより、2013年に愛知県の岡崎市消防本部に配備された全地形対応車・レッドサラマンダーが「I型」の「大型水陸両用車」、2014年より各地の消防本部へ配備が進められている津波・大規模風水害対策車に搭載された水陸両用バギーが「小型水陸両用車」と位置付けられた。
中型水陸両用車として採用されたのは米国・Hydratrek社製の車両で、可搬消防ポンプでおなじみのトーハツ株式会社が輸入し、消防車両仕様に追加艤装を行ったものだ。
陸上では左右計8輪のタイヤによりゴムクローラーを回転させ、不整地や泥濘地など路面状況にとらわれず走行することができ、最高速度は時速20km。水上では後部に備えられた2基のプロペラにより時速5kmにて航行が可能だ。一見すると重そうに見えるが、ボディーはアルミニウム製となっているため軽く、車両重量は3500kg。また、車体下部の空気室や車体内部に封入されたウレタン材、タイヤなどにより浮力を得ている。
エンジンはクボタ製のVT3600Tターボチャージャーディーゼルが搭載されており、燃料タンク容量は40Lで約10時間の稼働ができる。また、同車は油圧駆動式であり、エンジンにより油圧を発生させ、その油圧にてタイヤやプロペラを作動させる方式となる。走行に関してもハンドルやペダルではなく2本のレバー操作により運転する方式であるため、重機に近い構造ということができる。
緊急消防援助隊として出動する際などは同時に配備された搬送車に積載された状態で現場まで急行。今後は大・中・小の水陸両用車で全国をカバーする形となり、土砂災害や風水害に対する備えが一段と強化されたといえるだろう。
中型水陸両用車は、陸上ではゴムクローラー、水上ではプロペラを駆動させ走行やは航行が可能。不整地、泥濘地、雪上、瓦礫、池、河川といった一般の消防車両では走行することが困難な場所に対応できる。
前方に定員2名の運転室を備え、後方に隊員や要救助者を乗せるスペースを確保。その中間にエンジンを搭載する。ゴムクローラは片側4輪、計8輪のタイヤにて回転させる。
車体底部の空気室に左右のクローラ部分が備わる構造。
縞鋼板でできたタラップ部分にて運転室から後方スペースへの移動を行う。この縞鋼板の側板中央部分が喫水線となる。
運転室の左側ドア付近と、対角線上の右後方に乗降用跳ね上げステップを備える。
油圧駆動式のプロペラを2基装備。プロペラガードを備えており、水中の障害物などからプロペラを守る。
水上航行の状況。陸上は「大型特殊免許」、水上は「2級小型船舶操縦士」により操縦することができる。
後方スペースの状況。左右に6名が座れる座席が用意されている。
後部座席はフローティンク担架等を固定することができる。
車体前方のウインチ装置。悪路踏破時のセルフレスキューなどに活用される。
運転室の2席のうち、左側が運転席。搭乗者を保護するロールバーが組まれている。キャブ型のため、浸水などによりドア開放不能となった場合に備えて天井に緊急脱出口が設けられている(写真左)。操縦はセンターコンソールにあるコントロールレバー(2本)で行う。また、スイッチ操作による切り替えのみで走行・航行モードの変更が可能で、「タイヤ駆動」「プロペラ駆動」「タイヤ+プロペラ駆動」の3パターンの組み合わせが可能。
運転席正面にあるスイッチ・メーターパネル。
屋根上の状況。中央に見える縞鋼板の部分が緊急脱出口。
(追記:写真にある警光灯は本運用開始時に撤去されており、以降配備されている車両にも搭載されておりません。[2020.09.01])
車体中央部にクボタ製のVT3600Tターボチャージャーディーゼルを搭載する。
SPEC DATA | |
車名 | 米国・Hydratrek社 |
通称名 | 8×8 D2488B-P |
全長 | 4930mm |
全幅 | 2360mm |
全高 | 2940mm |
車両重量 | 3500kg |
搭乗人員(陸上) | 8名 |
搭乗人員(水上) | 6名 |
走行速度 | 20km/h |
航行速度 | 5km/h |
燃料 | 軽油 |
最大稼動時間 | 約10時間 |
船体材質 | アルミニウム |
艤装メーカー | トーハツ |
搬送車
中型水陸両用車を搬送する専用車両。救助活動に使用する水難救助用資機材をキャブ後方に設けられた積載庫に収納する。
搬送時は中型水陸両用車の四隅に設置されたシャックルを活用して緊締する。
中型水陸両用車の積み下ろしは荷台部分をスライドさせて行う。
SPEC DATA | |
車名 | いすゞ |
通称名 | フォワード |
全長 | 9480mm |
全長(荷台展張時) | 1218mm |
全幅 | 2490mm |
全高 | 2880mm |
車両重量 | 7800kg |
乗車定員 | 3人 |
艤装メーカー | トーハツ |
お 知 ら せ |
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。 また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。 |
取材協力:板野東部消防組合消防本部
写真・文:木下慎次
初出:web限定記事