注目の消防車両 CLOSE-UP! 救出救助車

 日本の消防機関における「爆発物」対策について、ひとつの方向性が示された。爆発物への対処として考えられるのは捜索や無効化といった、いわゆる爆発物処理といったものが考えられ、これは警察機関の対応領域だ。そこで、消防機関における対応領域の明確化・他機関との差別化といった意味合いを込め、消防機関では「爆発物」を切り分け、長年「CBRNE(シーバーン)災害」ではなく「NBC災害」という呼称や考え方を貫いてきた経緯がある。従って、コンビナート火災における爆発的燃焼等や噴火災害に伴う噴石等への対応として装甲性能を持った消防車両が製作されるケースはあったが、爆破テロに伴う危険区域からの救出を想定した消防車両は存在しなかった。

 こうした中、ラグビーワールドカップや東京2020大会(オリンピック・パラリンピック)の開催に伴うテロ発生リスク増大を踏まえ、東京消防庁では新たに「爆破テロへの対応」を念頭においた救出救助車を製作した。世界的に続発している爆破テロだが、実際にこうしたテロ災害が発生した場合、現場からの負傷者(要救助者)救出は消防が迅速に行うべきもの。そうなれば、消防機関においても爆発物に対する備えをしておかねばならない。同車は「爆心地での救出部隊」が運用する車両と位置付けられており、危険区域となる爆心地から半径約150mのエリアにおける迅速な救出救助を使命としている。爆発に耐えるべく車体は装甲や強化ガラス等で守られ、飛散物などがあっても踏破が可能なよう、高い悪路走破性能を備えている。また、車両後方には折畳式スロープを備えており、活動隊員の迅速な展開や要救助者の収容を可能にしている。

 こうした基本性能に関しては東京都が平成30年度に発表した予算案の概要にて記述がある程度で、その後は実質的な初披露の場となった統合機動部隊運用開始式においても詳細情報が発表されていない(※)。その理由は外観を見れば想像できる。同車の外観は警察の機動隊が運用する特型警備車(PV-2型)と瓜二つなのである。ちなみに、特型警備車は防爆性能も有しており、警視庁などでは爆発物処理部隊でも活用されている車両だ。特型警備車の詳細情報は公表されておらず、救出救助車についても同様の対応を行っていると考えられる。

 詳細な仕様は不明なるも、爆発に耐える性能を有した車両であることは確かだといえよう。爆破テロでは時間差により数次の爆発を起こして救助者などにも被害を与えるよう仕組まれることも少なくない。こうした悪意に満ちた危険な状況において隊員を守り、迅速な救出救助を行えるのがこの車両の特徴といえるだろう。

※統合機動部隊運用開始式では第三消防方面本部消防救助機動部隊の所属であることや、スロープによる迅速な救出が可能であることといった簡単な内容が訓練時のアナウンスで伝えられた程度だった。

 

側面に入れらた「消防救助機動部隊」の文字からハイパーレスキュー隊の配置車両であることがわかるが、同隊の車両のような車両名称や車種別記号、隊名標識などはない。陽圧型化学防護服をモチーフにしたエンブレムと「品川」ナンバーであることから第三消防方面消防救助機動部隊所属であることがかろうじて読み取れる。

 

前照灯が唯一ベース車両の面影が見えるポイント。この形状から三菱ふそうのキャンターベースであることが想像できる。

 

警察の特型警備車のように装甲板やその昇降装置を備えておらず、フロントガラス周辺はすっきりとした構造。各窓は飛散物に対処する防護網が備えられている。

 

左側面の状況。乗降ドアは警察の特型警備車と同じくドアノブがない。一方で、消防車両であることから銃眼はなく、周囲の状況を確認しやすいよう大きめの窓が設定されている。

 

右側面の状況。こちらの面には乗降ドアがない。左右両側面の上部には補助警光灯と周辺作業灯が備わる。

 

全体的に警察の特型警備車と同等の仕様であると思われるが、後部には救出救助車としての独自機能である折畳式スロープを備えている。

 

後方確認用の小窓と、その下には拡声用のスピーカーを備える。(写真左)/折畳式スロープは後部ドアをふさぐように設置されている。これに遮られることなく後方の確認をできるよう、後方に突き出すようなアームの先にバックカメラが設置されている。(写真右)

 

折畳式スロープは裏面に車輪を備えており、走行しながら車内からの操作により展開や格納が可能。

 

車内側には床面とスロープとの段差を解消するステップが用意されている。

 

同車の製作とあわせ、爆破テロ対応装備も新たに整備された。活動隊員が着装する防護装備としては防爆衣を導入。救助活動が行いやすい柔軟性を備えつつ、爆⾵や低速衝撃、爆⽚の貫通、⽕炎への曝露に対して⾼⽔準の防護性能を有するモデルが採用されている。(写真左及び中央)/爆破テロ対応装備として整備された救出用担架や四肢用止血帯(写真右)

 

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本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
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取材協力:東京消防庁

写真・文:木下慎次


初出:web限定記事

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