注目の消防車両 CLOSE-UP! 救助工作車 III型

HEARTのエンブレムや車両デザインは東広島消防署の笹見恭正消防士が担当。発隊式パンフレットの本格的なイラストも笹見消防士が描いたものだ。

 東広島市では、平成28年3月に発生した山陽自動車道八本松トンネル火災や、西日本豪雨災害(平成30年7月豪雨)といった複雑多様化する災害が頻発している現状を踏まえ、令和3年4月1日に高度救助隊を発足させた。同時に、同隊の基幹車両となる救助工作車が製作された。

 東広島消防署には平成14年に製作された日野レンジャーベースの救助工作車が配置されており、更新時期を迎えていた。高度救助隊運用車両としてII型からIII型へのバージョンアップ、つまり高度救助用資機材の増載が必須となる。また、平成30年7月豪雨や令和2年7月豪雨を教訓としており、こうした場面で必要となる倒壊建物・土砂災害対応資機材(救助用支柱器具やコンクリート破壊器具等)などの積載も必須であると考えた。この場合、従前車両と同等の日野レンジャーベースでは積載量が確保できない。そこで日野プロフィアベース、全長約10mの3軸車両に変更された。こうした仕様・車格の救助工作車は広島県内初となる。

 先の豪雨災害では市内各所で同時多発的に大規模な被害が発生し、長時間の対応が余儀なくされた。その影響で、現場への移動手段や人員の確保にも苦慮した経験がある。後着隊に追加資機材の輸送を依頼することなどできない。こうした極限状態を踏まえ、使う隊員と必要な装備がワンパックで動ける方式を選んだのだ。

 HEART(ハート)の愛称が与えられた高度救助隊は、市内はもちろん、緊急消防援助隊として全国への応援出動に臨む。ハイルーフ化された事で車内での活動性や収容能力も向上し、積載庫には必要な資機材が揃っている。この安定感が、過酷な現場での活動をパワフルに支えてくれるのだ。

 

重量物をより多く積載できるよう、日野プロフィアをベースに製作。22tシャーシによる救助工作車は広島県で初となる。

 

車両後部にはタダノ製クレーン「TM-ZX503HRENBA」(3段/2.9t)を搭載。

 

左側は交通救助に対応する大型油圧式救助器具などを積載。

 

幅狭な収納部の上段はマット式空気ジャッキ等を収納。下部燃料タンク付近に予備燃料の携行缶も収納できるようにしている(写真左)。展開式ラックに大型油圧式救助器具一式を積載(写真右)。

 

同車には即応性を考慮し、バッテリー式大型油圧式救助器具も併載。シャッターを開放すればすぐ取り出すことができるようになっている。

 

後輪上スペースに各種救助資機材を積載。ここに高度救助用資機材も積載できる。

 

右側は展開式に加え引き出し式収納を多用して収納性を向上。

 

ウエットスーツは吊下げた状態で保管収納が可能(写真左)。引き出し式ラックにエンジンカッターや発動発電機を積載(写真右)。

 

ロープレスキュー関連の引き出し式ラックと水難救助用の引き出し式ラック。

 

フロントウインチは大橋機産製の油圧5t引きタイプ「CW5202F」を採用。

 

リアウインチは大橋機産製の電動5t引きタイプ「CW5103DVT」を採用。

 

照明は多摩川精機製のLED照明装置「SQE4000」を採用。発電装置も同社製「GHD13KVA」が採用されている。

 

ハイルーフ化により立位での空気呼吸器着装が可能。

 

キャブから積載庫、積載庫からクレーンブームにかけての黒ラインにより引き締まった印象を与えている。また、東広島消防署のある西条地区は酒蔵の町。酒蔵のなまこ壁をイメージしたラインを取り入れ地域性を表現している。

 

「高度救助隊」の文字と共に、同隊のエンブレムデザインが大きく描かれている。(写真左)。あわせて、本部エンブレム(写真右上)や緊急消防援助隊エンブレム(写真右下)もバランスよく入れられている。

 

搭載する高度救助用資機材

  • 水中探査装置
  • 夜間暗視装置
  • 熱画像直視装置
  • 地震警報器
  • 地中音響探知機
  • 画像探査装置

 

東広島市消防局 高度救助隊 発隊式

 複雑多様化する災害が頻発していることを受け、東広島市消防局ではこれらの災害に迅速・的確に対応するため、救助工作車の更新に合わせて高度救助用資機材を導入。精鋭の救助隊員で編成する「高度救助隊」を令和3年4月1日に発隊させ運用を開始した。
 それに伴い発隊式が挙行され、東広島市長からのエンブレム授与及び隊員決意表明が行われた。

 

「Higashihiroshima Emergency Advanced Rescue Team(東広島高度救助隊) 」の頭文字をとった「HEART(ハート)」を中央に配し、高度救助隊の「熱い心」を表現。「電光石火の救助技術」「燕の飛行姿」をモチーフにし、「無事に活動から生還する」という意味を込め、救助隊のシンボルマークである稲妻を中央に配している。

 


 

SPEC DATA
車名 日野
通称名 プロフィア
シャーシ型式 FQ1AJ-101233
全長 9,760mm
全幅 2,490mm
全高 3,490mm
ホイルベース 5,725mm
最小回転半径 8.0m
車両総重量 17,060kg
乗車定員 6名
原動機型式 A09C
総排気量 8.86L
駆動方式 6×4
ウインチ(能力)  前:大橋機産製 CW5202F(油圧/5t)
 後:大橋機産製 CW5103DVT(電動/5t)
クレーン(能力) タダノ製TM-ZX503HRENBA(3段/2.9t)
照明装置 多摩川精機製 SQE4000
発電装置 多摩川精機製 GHD13KVA
配備年月日 令和3年4月1日
艤装メーカー 株式会社モリタ
契約先 株式会社ツモリオート

 

 

 


 

お 知 ら せ
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

 


 

取材協力:東広島市消防局

写真:株式会社ライズ

文:木下慎次


初出:2021年7月 Rising 夏号 [vol.22] 掲載
(※この記事はRising掲載記事を補完したWeb完全版です)

 


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