令和6年能登半島地震 緊急消防援助隊活動報告
令和6年1月1日に石川県能登半島で発生した大規模地震災害に対し、緊急消防援助隊として21都府県から延べ約5万9000名が投入された。神奈川県大隊は1月10日~2月13日までの計35日間、第12次派遣までを行い、延べ565隊・計1,905名が石川県輪島市などで活動を展開した。
このうち、1月19日~23日までの5日間を担当した第4次派遣隊(78隊・計274名)では、県内各消防本部から女性消防職員6名が被災地での活動に参加。神奈川県大隊としては2021年7月に静岡県熱海市伊豆山で発生した大規模土石流災害において1名の女性消防職員が活動に従事しているが、被災地に複数の女性消防職員を本格的に投入したのは今回が初めてとなる。
こうした背景をふまえ、1月31日に神奈川県内の各消防本部で勤務する派遣女性消防職員6名が横浜市消防局本部庁舎に再び集結。第4次派遣隊の報道機関への活動報告会において取材に応じた。
神奈川県大隊第4次派遣隊の主な任務は以下の通りだ。
任務1:輪島市町屋町寺山地区での行方不明者の捜索 任務2:輪島市名舟地区(名舟漁港付近)での行方不明者の捜索 任務3:輪島消防署町野分署の支援 任務4:輪島消防署(本署)救急隊支援 |
これらの任務について、まずは同隊の大隊長を務めた横浜市消防局の塚原和浩消防監(60)から活動概要の説明があった。
任務1:輪島市町屋町寺山地区での行方不明者の捜索
輪島市の町屋町寺山地区で行方不明となった60代男性の捜索活動が行われた。神奈川県大隊の宿営地である「やなぎだ植物公園(石川県鳳珠郡能登町字上町ロ部)」から中継ポイントとなる「若山ダム(石川県珠洲市若山町上山)」まで車両で約1時間かけて移動し、その先は車両通行不能なため徒歩にて約1時間かけて移動しなければならない。
現場は広大で、山が崩れ、見渡す限り土砂が堆積されているという状況。ここを持ち込むことができた限られた資器材を駆使し、手掘りにて捜索する。また、倒木などもチェーンソーなどにより切断して除去していった。
任務2:輪島市名舟地区(名舟漁港付近)での行方不明者の捜索
輪島市の名舟地区(名舟漁港付近)では行方不明となった50代女性の捜索活動が行われた。こちらの現場は宿営地から車両移動で約1時間ほどの場所。山が崩落して住宅を襲い、さらに火災が発生し、行方不明者が発生したという状況だ。現場では広域緊急援助隊として駆け付けた大阪府警の部隊が小型の重機を使って活動しており、同隊と連携しての捜索活動が進められた。
任務3:輪島消防署町野分署の支援
捜索等の活動とは別に、現地消防本部の支援も実施された。
輪島市町野町にある奥能登広域圏事務組合消防本部輪島消防署の町野分署では発災直後より無線・指令系統が断絶。地震による庁舎被害により、輪島市立東陽中学校校舎内に仮移転して活動を継続。発災直後に多発した付近住民からの救助要請への対応や火災対応、増加し続ける救急要請への対応にあたっていた。地震の影響で消火栓等が使えない状況や、消防車両の被害もあり、さらに住民全員が被災者という状況。もちろん、消防職員も被災者であり、労務負担も相当なものだった。
こうした状況をふまえ、神奈川県大隊では町野分署支援業務を決定。1月20日より町野分署支援業務を実施した。
まず、救急隊業務支援として当直1隊、日勤2隊、消防隊業務支援として当直1隊、日勤2隊を投入し、当直業務支援を実施。また、消火栓や防火水槽などの水利が倒壊家屋で塞がっているといった状況もあったことから、何とか水利を確保するという目的でここにもマンパワーをあて、管内の消火栓・防火水槽約250基を対象に水利調査を実施。あわせて、管内巡回警戒を実施した。
任務4:輪島消防署(本署)救急隊支援
大阪府大隊がサポートに入っていた輪島消防署(本署)において、大阪府大隊が交代を行う空白のタイミングをカバーすべく、交代日の1月20日のみ、輪島消防署の本署救急隊の支援が行われた。
この間に救急搬送が1件あり、輪島市から金沢市まで片道約100kmの搬送が行われた。
後方支援隊の任務
これらの任務を、神奈川県大隊としてフルポテンシャルで対応できるようにサポートしたのが後方支援隊だ。
後方支援隊の任務としては、まず神奈川県大隊総勢約280名分の食事準備を行う給食活動を実施。県が一括調達した食料(カップ麺やアルファ化米など)を調理し、隊員らに提供した。
また、生活衛生管理として生活ゴミ及び汚物の管理、トイレ管理として水洗水の補水や汚物タンク容量の確認などを実施。
泥だらけで帰った隊員が宿営地を汚染しないように水で洗い流すデコンタミネーションの準備や実施も後方支援隊が対応した。
後方支援隊ではこれら任務を3ブロックのローテーションで実施した。
女性消防職員の派遣
第4次派遣隊の隊員として、男性職員と共に被災地へ派遣されたのが県内の各消防本部に所属する6名の女性消防職員だ。
6名のうち、藤沢市消防局の上田三輪消防士長、逗子市消防本部の立野七津姫消防士長、川崎市消防局の石橋明奈消防士長、箱根町消防本部の尾崎有咲消防士が後方支援隊として活動を行った。
後方支援隊は消火・救助・救急などの各小隊の隊員らの現場活動をサポートするのが任務だ。宿営地内のみの活動ではなく、宿営地から活動現場までの人員・物資輸送なども担当しており、上田消防士長は機関員としてこの任務に従事してる。
座間市消防本部の柵木景子消防士長は消火小隊の隊員として活動に従事。町野分署支援業務の際は機関員としてポンプ車の運転を担当し、管内での水利調査などを実施した。
横浜市消防局の河原結菜消防士長が担当したのが記録・広報担当という任務。活動隊員らと共に現場に入り最前線にて記録を行うのが役目であり、この記録が後の活動の資料として活かされる。
このように、6名の女性職員は緊急消防援助隊が活動する上で必要なミッションに対して、いち消防職員としてそれぞれ役割が与えられている。
消防という組織において女性消防職員は依然として少数派と言わざるを得ない現実があるが、その数は確実に増加しており、現在では男女にかかわらず同じ消防職員として消防署などでの勤務を行うのが当たり前となってきている。こうした時代の流れもあり、緊急消防援助隊などの広域応援のメンバーに女性が組み込まれることも、珍しいことではなくなった。
本災害においても、神奈川県大隊の出動が決定した当初より県内消防本部の中では女性職員の参加を計画する動きがあったのだが、一方で、1月1日より活動を展開していた他府県大隊から「想像以上の過酷な状況」という情報もあり、こうした環境の中、女性隊員のケアがどこまでできるかという点を図りかねていた。
これは、女性だから過酷な環境には送り込めないという話ではない。
消防職員である以上、男女問わず任務を遂行するため現場に投入されるのは当たり前となっており、また、女性消防職員自身もその覚悟をもって日々の任務に就いている。
「女性だからとか男性だからとかではなく、いち消防職員として、甚大な被害が発生している被災地で自分に何かできる事はないだろうかと考え、少しでも早く現場に行きたいという気持ちがあります。コンプライアンス的に問題があるのかもしれませんが、どんな環境でも、雪山でトイレをすることも、男性と同じテントで寝ることも覚悟しています。できれば第1次で行きたいと志願していたんですが、被災地の状況がわからない、女性の派遣が難しい環境にあるかもしれないということで、最終的に第4次の派遣となりました」(座間市・柵木消防士長)
懸念されたのはトイレや生活環境の面。被災地への派遣なので、現地の状況により緊急的にこれらに妥協が必要になる場面も起こるかもしれない。だが、派遣の計画段階において生活環境がしっかり区分できるか不明、プライバシーも保護できるか不明となると、話は別だ。まずは状況を見極めない限り、女性職員の派遣は難しい。実際、第1次派遣隊は宿営地へたどり着くのもやっとという状況に直面し、第3次までは宿営地のトイレも簡易トイレで対応。生活スペースも男女別に分けるところまではすぐに手が回らなかった。第3次までで活動や宿営地での生活の基盤を整備したことで、第4次において女性職員の派遣が決定。この段階でトイレも仮設トイレが設置され、通常は所属本部単位でテントで寝泊まりするが、女性職員は所属とは別に女性用テントを設定し6名で就寝するスタイルがとられた。
「生活面で困ったことなどはありませんでした。第1次~第3次隊までが事前にしっかりと、女性が来るということも踏まえて宿営地の整備や整理していてくださったおかげで、我々は本当に恵まれた中で活動できたと思っております」(逗子市・立野消防士長)
今回は第4次派遣隊から女性消防職員が被災地に入ったが、これは本災害の状況を踏まえての判断であり、今後は第1次から派遣されることも当然ある。あくまで、状況に応じたその時々の判断で、必要な消防力を投入していくということだ。
「消防の活動全体については男女の区別はないと考えております。ですが、被災地には男性も女性もおります。そこで、女性に対しては女性が声掛けするなど、同性同士の方が心配りができたり、安心感を与えられることがあります。こうした観点からも、女性職員が派遣される事には大きな意味があります」(横浜市・塚原消防監)
神奈川県大隊では第4次以降、女性隊員が被災地で活躍した。今回得られた様々な要素を教訓に、今後も男女の区別ない派遣を進めていくことにしている。
派遣女性消防職員の声
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取材協力・現場写真提供:横浜市消防局
人物写真・文:木下慎次
初出:web限定記事