第14回 9PM 中四国訓練会・第9回 TIRAEMT in 鳥取【車両事故対応訓練会】
■交通救助に特化した自主勉強会
近年では自動車の安全性能が向上し、交通事故発生時も車内空間を確保するなどして乗員の安全が確保できる仕組みが定着しています。
しかし、こうした安全性能も万全ではなく、衝突時の諸条件によっては乗員の挟まれ等が発生し、それを解除しての救出が必要となります。
自動車も安全性能の向上と共にボディー剛性が高まり、救出時の破壊にもテクニックが必要となっています。しかし、実際の自動車を徹底的に破壊して技術を覚えるといった訓練はなかなか行いにくいという現実があります。
そこで、近年では自主勉強会にて、車両事故対応をテーマとしたものが各地で実施されています。有志が集まることで訓練場所や破壊対象となる車両を効率的に確保し、じっくりと訓練し、各々が所属に持ち帰って知識や手技を共有しようというのが狙いです。
■2つのグループが連携!
平成27年11月20日(金)~21日(土)の2日間をかけ、鳥取県鳥取市において第14回 9PM 中四国訓練会・第9回 TIRAEMT in 鳥取「車両事故対応訓練会」が実施されました。
この訓練会(勉強会)は調整や運営については9PMが担当し、技術指導などをTIRAEMTが担当。その他、市内の自動車解体業者や大型油圧救助器具取り扱いメーカーなどの協力を得て開催。受講者33名、スタッフ等約30名の総勢約63名により行われました。
この訓練会は日々進歩を続ける車両構造を理解し、あわせて車両事故対応の先進国である欧州(ドイツ)から車両事故対応を学んだ経験者が実車を用いて基礎的・応用的知識技術を伝達することで知識や技術を共有することのできる学びの場。ここで得たものを活かすことで、より安全で且つ迅速、確実な救護・救出活動を実現し、災害対応力の向上に役立てることを目的としています。
同時に、訓練会は中四国地域及び全国の災害救助や医療に関わる人々の情報交換の場としても位置づけられています。
■TIRAEMT(ティ・アイ・アール・エメット)
日本全国を舞台とし、車両事故対応技術の普及を主として活躍する自主勉強グループです。ドイツで開催されるWEBER rescue days(資機材メーカー主催の大規模訓練会)に参加し、持ち帰った知識・技術を基に研究・訓練を重ね、国内にあった技術を普及させることにより救命率の向上を目指します。
※TIRAEMT
Traffic(交通)、Incident(事故)、Rescue(救助)、And、Emergency(緊急)、Management(管理)、Training(訓練)の頭文字
■9PM(ナイン・ピー・エム)
9 Prefecture Meeting の略で、中国・四国地方の九つの県の集まりを表しています。中国・四国地方の10消防職員が中心となり訓練、検証、講演等を行い、上下関係なく全員で作り上げることを大切にし、消防活動全般の底上げを目的に活動する自主勉強グループです。
スプレッダーによる車両移動方法
車両事故対応訓練会に参加して目から鱗の発見となるのが、大型油圧救助器具の活用について。スプレッダーなら拡張やつぶし、カッターなら切断、ラムシリンダーなら押し上げといった固定概念がありますが、資機材の使用諸元の範囲内であれば様々な使い方が可能になります。最初に実施したのがスプレッダーによる車両移動方法。スプレッダー先端の一方を地面に、そしてもう一方を対象車両のホイールにあて拡張動作を行えば、ジャッキ的効果により車体が持ち上がります(写真1)。そこで、操作隊員が肩で対象車両を押し込むことで、車両を動かすことが出来るのです(写真2)。移動後は車両の安全固定を行います(写真3~5)。
ガラスの破壊法
要救助者へ接触するためにも、車内への進入口を設定しなければなりません。この場合、ガラス面を破壊するのが効果的。基本的に乗員から遠い位置のガラスを破壊するのが定番で、オペラガラスに対して最少ガラス面処理(養生テープ等による格子処理)を実施した上で破壊します(写真1)。サイドやリアガラスの場合は文字通り割ることで破壊しますが、この場合、車内側にガラス片が飛散して要救助者や活動隊員を傷付けてしまわぬようにシールドなどを用います(写真2)。先に破壊したオペラガラス部分から手を差し込み、シールドでガラス面をカバー。その上でガラスを割ります(写真3~4)。フロントガラスに関してはガラスカッターなどを用いて切断を行い開口部を設定します(写真5~6)。
カッターの使用法
切断時の注意点を学ぶため、屋根の前部及び後部を対象にカッターにて切断を実施。この際、ハンドルをFree にし、刃先部分を2 時の方向(約60 度)に傾けた状態で切断を行い、切れ方やカッターそのものの挙動を確認します。また、スプレッダーを抱えて取り扱う方法も体験します。
助手席側後部座席ドア開放
助手席側の後部座席のドアにハリガンツールで間隙を設定。スプレッダーによるピーリングテクニック(対象をつまんで引き剥がす手法)での開放を実施します。同時に、ラッチ(オス・メス)の強度なども確認します。
ドア2 枚抜き法 I
諸外国では定番のドア2枚抜き。カーテンエアバックの有無を確認後、助手席側B ピラー上部をカッターにて切断。シートベルトプリテンショナーを避け、カッターでB ピラー下部にも切り込みを入れます。続けてスプレッダーを使用し、B ピラー下部及び後部座席下に設定し拡張してBピラーを切断(写真1)。切断後、フロントドアのヒンジ部を下部側からスプレッダーで剥ぎ取ります(写真2)。これにより、同時にドア2枚分が開放されます(写真3)。
横転車両に対しての固定法
横転車両の安定化を行う際は、車体を持ち上げる必要があれば、スプレッダーを使用します(写真1)。これにより出来た間隙にクリブ材やスタブパックを挿入(写真2~3)。身近なものではホースブリッジなども活用できます。
運転者の身体確保(落下防止措置)
事故車両が横転状態で、さらに運転者が車内に閉じ込められている場合は、地面側への落下防止措置をとる必要があります。この場合は消火用のホースを活用。広い面で要救助者を確保することが出来ます。(写真1)。ホースの端末は車軸に撒きつけて固定を行います(写真2)。
車内の状況把握
横転車両の場合、車両の床付近が死角となり観察できない場合が多いです。こうした場合は車体裏にある水抜き穴(写真1)を活用。スプレッダーの先端をこの水抜き穴に差し、上下左右方向に拡張を実施(写真2)。すると長方形の小窓が設定出来上がります(写真3)。車内側のカーペットを切断すれば、通常は死角となる足元、ペダル周りなどを確認することが出来ます(写真4)。
ドア2 枚抜き法 II
運転席側リアドアをスプレッダーで開放(写真1)。続いてフロントドアヒンジ部を破断します(写真2)。カーテンエアバックの有無を確認後、B ピラー上部を切断(写真3)。センターコンソール若しくはリアシートとB ピラー中央部付近にシリンダーを使用して拡張を行います(写真4)。更にB ピラー切断面にシリンダーを設定してB ピラーを車両床面まで拡張(写真5)。最後にスプレッダーによるピーリングテクニックを活用しドア2 枚を剥ぎ取ります(写真6)。
座席のリクライニング法
写真は助手席への対応。天井部に当て木を設定して(写真1)、この当て木と助手席ヘッドレスト付近にスプレッダーを設定(写真2)。拡張することで強制的に座席のリクライニングを行います。
座席拡張による救出スペースの確保法
まずはSRS (補助拘束装置)のないことを確認(写真1)。座席のリクライニング部をカッターにより切断し(写真2)、状況によりスプレッダーも活用して開放を実施します(写真3)。
ペダルの移動排除法
運転者の足を挟み込んでいることが多いペダル。これを解除する手早い方法がこれです。テープスリングや事故車両のシートベルトを活用し、リングを設定。これをペダルにかけます(写真1)。車外側に引き出したリング部分にスプレッダーを設定し、車体の強固な部分や地物と共に挟み込むことで牽引力を生み、動かします(写真2)。ブレーキペダルであれば助手席側に引く方法を採ります(写真3)。
屋根部開放法
助手席A・C ピラーをカッターにて切断後(写真1~2)、運転席側C ピラーにシリンダーを設定し拡張します(写真3~4)。これにより屋根部開放方法を行います。
フロントパネルの拡張法
助手席下部の床面及び当該部分から約20 ㎝上部を切断。スプレッダーによるピーリング(写真1)を行った後、スプレッダーを最初に入れた切れ込み部分に設定し拡張します(写真2)。運転席側も挟まれ状態であれば、同様に対応を実施(写真3)。また、スプレッダーによる拡張では思うように解除できない場合は、ラムシリンダーを用いります(写真4)。
本記事は訓練などの取り組みを紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する内容は当該活動技術等に関する全てを網羅するものではありません。 本記事を参考に訓練等を実施され起こるいかなる事象につきましても、弊社及び取材に協力いただきました訓練実施団体などは一切の責任を負いかねます。 |
写真・文:RISE取材班