水害・土砂災害に備える新たな災害対応力

 令和8年5月30日、東京消防庁と板橋区は荒川右岸河川敷の荒川戸田橋野球場を会場に「令和8年度東京消防庁・板橋区合同総合水防訓練」を実施した。訓練は、大型で強い台風の接近に伴い荒川の氾濫危険が高まり、区内で道路冠水や家屋浸水が発生するとともに、都内の急傾斜地で土砂災害が発生したとの想定で行われた。会場では消防部隊や行政機関、地域住民ら約600人が参加し、水防工法をはじめ、浸水建物救助、孤立地域救助、土砂災害救助、水難救助などの訓練が展開された。

 訓練冒頭には住民等参加型訓練が行われ、地域住民や高校生らが土のう作成や各種水防工法を体験した。また、避難行動要支援者を想定した避難誘導訓練も実施され、地域ぐるみで水害に備える体制づくりが進められた。

 水防工法訓練では、東京消防庁、消防団、板橋区、陸上自衛隊が連携し、月の輪工法や釜段工法、積み土のう工法などを実施。増水時における被害軽減を目的とした基本技術の確認が行われた。

 一方、今回の訓練では近年導入が進む新たな車両や資機材にも注目が集まった。

 土砂災害救助訓練では、9本部ハイパーレスキューに配備されている道路啓開型の救出救助車が投入された。同車は倒木や土砂、車両などの障害物を除去し、後続部隊の進入路を確保することを目的とした車両で、大規模災害時における初動活動を支える重要な役割を担う。

 また、総務省消防庁の無償使用車両として配備が進む三菱トライトンも投入された。同車は即応YF2として即応対処部隊に配備されており、高い悪路走破性能を備え、被災地での情報収集や隊員輸送、資機材搬送など幅広い運用が期待されている。

 倒壊家屋からの救助には、国内の消防機関として初めて正式配備された四足歩行型検索ロボットが活用された。8本部ハイパーレスキューに配備された同ロボットは、倒壊建物内部など隊員の進入が困難な場所へも進入し、映像伝送や状況確認を実施するもので、災害現場における情報収集能力の向上に寄与する装備として期待されている。

 さらに、9本部ハイパーレスキューに配備されている強力吸引車による土砂除去活動も実施された。土砂を吸引して除去することで隊員の安全確保や活動効率向上を図るもので、複雑化する災害への対応力強化につながる装備として存在感を示した。

 このほか、浸水建物救助訓練では搬送型の救出救助車(高機動救助車)やクレーン車を活用した救助活動が展開され、孤立地域救助訓練では消防ヘリコプターによるホイスト救助、水難救助訓練では消防艇や航空隊による救助活動が実施された。

 今回の訓練では、水防工法などの従来からの対応技術と、新たな車両・資機材を活用した先進的な災害対応が同時に展開された。激甚化・複雑化する自然災害への対応に向け、関係機関の連携強化と災害対応能力向上を図る有意義な訓練となった。

 

救助先行車

総務省消防庁が救助先行車として全国の消防機関へ配備を進めている三菱のトライトン。東京消防庁では即応対処部隊で運用され、土砂災害現場などへの迅速な進入や情報収集を担っている。

 

救出救助車(道路啓開型)

メルセデス・ベンツのウニモグをベースとした救出救助車(道路啓開型)。高い走破性能と公道走行性能を兼ね備え、障害物排除や物資輸送などを担う。

 

四足歩行型検索ロボット

隊員の進入が困難な場所で人命検索や情報収集を行う。アームや把持装置を駆使した簡易作業に対応し、隊員の安全確保に寄与する。

  • 砂地や不整地はもちろん、階段や傾斜地でも安定した移動が可能だ。
  • アーム先端にはカメラと把持装置を装備。ドアの開閉などにも対応する。
  • タブレット端末やコントローラーを用いてロボットを操作する。

 

強力吸引車

土砂や瓦礫などを強力な吸引力で除去する強力吸引車。重機の進入が困難な場所にも対応できることから、緊援隊装備として同等の車両を「高度土砂吸引車」として全国の消防機関へ整備する構想が進められている。

  • 車両中央の機械室に空冷式ブロワーを搭載。高真空での連続運転を可能とし、長時間の活動に対応する。
  • 車両後部の吸引ホースは100mまで延長可能。車両が進入できない場所まで吸引口を到達させることができる。
  • 水分量の多い土砂や乾いた砂、泥水、瓦礫などを強力な吸引力で吸引できる。

 


 

 本記事は取材に基づく訓練レポートであり、訓練などの取り組みを紹介する趣旨で制作しております。記事中で紹介する訓練内容や活動技術等は、全てを網羅するものではありません。

 また、本記事を参考に訓練等を実施されて生じたいかなる事象につきましても、弊社および取材にご協力いただいた訓練実施団体等は、一切の責任を負いかねます。

 なお、記事中に掲載している車両・資機材等は、取材先で使用されていた装備を紹介するものであり、弊社が製造・販売・取扱いを行っていることを示すものではありません。

 


 

取材協力:東京消防庁
写真・文:木下慎次


初出:2026年7月 Rising 夏号 [vol.42] 掲載


pagetop