注目の消防車両 CLOSE-UP! 化学消防ポンプ自動車 II型

 西日本各地に多大な被害をもたらした西日本豪雨災害(平成30年7月豪雨)は、広島県東広島市にも大きな爪痕を残した。市内では数多くの土砂崩れや河川の氾濫が発生し、道路などのインフラに被害をもたらした。これにより消防も活動が制限され、災害の実態把握、多数傷病者の搬送に苦慮した。また、発災後に発生した大規模な断水により消火栓は使用不能に陥り、火災発生時の水利確保が課題となった。こうした教訓を踏まえ、東広島市消防局では東広島消防署に配備された化学車II型の更新に際し、大胆なバージョンアップを行った。

 先代車両は一般的な仕様だったのに対し、新車両は3軸仕様の大型消防ポンプ自動車専用シャシに8000Lの大型水槽を搭載したビッグサイズで、車格としては大型化学車と同等となる。基本性能はII型の規格に準じており、特徴的なのは水槽容量といえる。水槽はポンプ室後方に設けられ、容量8000Lながらアルミ製とすることで軽量化が図られている。水ポンプについても軽量化を考慮しアルミ製1段ボリュート式ポンプを採用。容量500Lの原液槽は水槽とポンプ室の間に設けられ、耐食性を考慮しステンレス製となっている。軽量コンパクトでありながらパワフルなポンプと大型水槽により強力な放水を可能とし、油脂火災発生時は500Lの原液と水をポンププロポーショナーにて混合。発泡管そうにより消火用泡を吐出して消火活動にあたることができる。

 広島県内で初となる仕様で生み出された同車は、断水時の水量確保のみならず高速道路等の火災にも対応可能であり、一般火災から油脂火災までマルチに対応できる頼もしい一台に仕上げられている。

 

西日本豪雨の教訓や高速道路等での火災対応などを考慮し、8000Lの水を積載して「化学水槽車」としてバージョンアップ。緊急消防援助隊登録車としてエンブレムも掲げられている。

 

後輪の上に載るのが8000Lの大型水槽。シンプルな化II型がベースだから実現した車両と言える。

 

全長の長さを考慮し隊員動線を最短にできるよう、ポンプ室下部にホースバッグや分岐、ノズルを集中積載。

 

左右の積載庫にはホースなど最低限の装備を積載(写真右)。後部積載庫には大量のホースが積載されている(写真左)。

 

水と原液の残量を見る液量計(写真左)。積水口の横に水槽水取出口を備え、積載水を活用可能(写真右)。

 

II型なので放水銃は400L型。起伏旋回伸縮が可能でポンプ室上部に一基を備える。

 

水槽部分の側面には「化学水槽車」のコンセプトを象徴する「CHEMICAL & WATER TANKER」のマーキングが施される。

 

東広島消防署のある西条地区は酒蔵の町。酒蔵のなまこ壁をイメージしたラインを取り入れ地域性を表現している。

 

運転室の状況。大型車両なのでゆったりとした空間が確保されている。

 

隊員席も広い空間が確保されており、広域応援の際なども負担軽減を図ることが出来る。

 

車上の状況。ボックスには耐熱服などを収納。

 

 

SPEC DATA
車名 日野
通称名 プロフィア
シャーシ型式 2PG-FQ1AJG改
全長 9650mm
全幅 2490mm
全高 3270mm
ホイルベース 5725mm
最小回転半径 8m
車両総重量 21510kg
乗車定員 6名
原動機型式 A09C
総排気量 8.86L
駆動方式 6×4
水ポンプ A-2級アルミ製一段ボリュート式ポンプ
水槽容量 8000L
薬液槽容量 500L
混合液流量範囲 500~1200L/min
混合方式 ポンププロポーショナー方式
泡ターレット 400L型 1基
配備年月日 令和2年2月26日
艤装メーカー モリタ

 

 


 

お 知 ら せ
本記事は最新消防装備等を広く紹介する趣旨で製作されたものであり、紹介する装備等は弊社が製造や販売を行うものではございません。
また、当該装備の製作や調達に関するお問い合わせを頂戴致しましても、弊社では対応いたしかねます。あらかじめご了承ください。

 


 

取材協力:東広島市消防局

写真・文:木下慎次


初出:2020年4月 Rising 春号 [vol.17] 掲載


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